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第273話.暗闇に差す光

この暗闇から出るにはどうしたら良いんだろう。 そんなことを考えるようになったのは先生が『安心して戻ってきたらいい』と言ってくれたからか、晴臣さんが挙げた人達に会いたいからなのか、よく分からない。 でも、この暗闇の出口がどこにあるのかも、本当に出られるのかも分からない。 それに出られても目は見えなくて声も出ない。耳も殆ど聞こえないなんて、お荷物以外の何者でもない。 来てくれる人達にとっても、僕はこのまま暗闇の中にいた方がいい気がする。 「今日も良い天気ですよ。みんなが来る前に体を拭きましょうね」 晴臣さんはいつも、建物内にいる時から、献身的に動いてくれる。 傷だらけで汚れた体を拭かれて新しいパジャマに着替える。 意識が無いからきっと大変だよね。 晴臣さん、いつもありがとう。 お礼を言いたくても目も手も動かない。 暗闇の中なら動けるんだけどな。 「明さんがみんなを迎えに行きましたから1時間もしたら賑やかになりますね」 その中に優しい人もいるのかな? 僕に会いに来てくれるなんて、みんな優しい人だと思う。 でも、夢に出て来るあの人に会いたいってずっと思ってた。 誰か分からないのに会いたいなんて変だって自分でも分かってるけど、ずっと元気付けてくれて精神的な支えだった。 眠ればあの人に会える。そう思えば辛いことも大丈夫って思えた。 「あ、皆さん来てくれましたよ」 「「静!!」」 ん? 随分若い声がする。 友達が来るって言ってたっけ? 「静だ。会いたかったよ。痩せたな」 「うぇっ、ぐすっ、し、ずくゎぁ〜!」 暖かい風が吹き抜ける。 あれ? これってあの時と同じ? 映像が暗闇の中に浮かび上がる。 学校かな? 2人の同じくらいの背の男の子と僕は楽しそうに話してる。2人のことが大好きだって見ているだけでも分かる。 これは僕の記憶の断片なのかな? こんなに幸せだと思う時間があったのかな? 足元から強い光が放たれる。 下を見ればあの時の箱があって、同じように持ち上げる。 光に包まれた鍵は2個。見ていたらサーッと砂に変わるように粉々になり、鎖も下に落ちる前に消えた。 残る鍵は2個。 この箱は大事なものが入っているんだと思う。 夢であの人が渡してくれた物で、不思議とこの箱が現れる時は見えないはずの目が見えるようになる。 映像が消える直前に視線の先に差し込む光があることに気がついた。 そこに辿り着く前にまた暗闇に戻ってしまう。 「ああ、もう誠! 顔ぐちゃぐちゃだよ」 「だってっ! 静、ちゃんとあったかい、、から」 両側から抱き着かれている。 なんか、前にもこんな事があった気がする。 何も思い出せなくて苦しい。 もしかしたら来てくれた人達の方が僕よりも苦しいのかもしれない。 そう思ったら悲しくなってしまった。

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