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第274話.箱の中身
2人が離れるのを寂しいと思う。
でもまた他の人に抱き締められる。
「静くん、生きててくれてありがとう」
さっきと同じように暖かい風が吹き抜ける。
映像が暗闇に浮かぶ。
あれ? この映像って………明さんの時と同じ?
あの時よりも映像がはっきりしているように見える。
とても不思議なんだけど、2人いるどちらが明さんでどちらが今話しかけてくれた人なのか分かる。
この人はとても穏やかで温かい
また消えてしまった箱が現れる。
箱を持ち上げると眩ゆい光に包まれた鍵がまた砕け散って鎖も消える。
残ったのは一際大きな鍵1つだけとなった。
箱を持ったまま光が差し込む所に向かうが、結局また辿り着けなかった。
いつの間にか箱もどこかにいってしまった。
頭を撫でられてこの手を知っていると思った。
でも思い出せない。
「鈴、お待たせ」
「いや、大丈夫。2人だけにしてもらえるかな?」
「分かった」
「何かあったら呼んで下さいね」
今の声?!
あの人の声だ!
実在する人だった………
「静っ!!」
ギュッと力強く抱き締めてくれるこの腕を僕は知っている。
今回は爽やかな風が吹き抜ける。
浮かび上がった映像は草原のような場所。
格好いい人が笑顔でこちらを見ている。
いつもなら僕もそこにいるはずなのに、その人は今の僕を見つめていた。
どうしたらいいのかが分からない。
向こうから近づいて来て、ふわりと抱き締められる。
「お帰り」
今まで映像から音は聞こえなかったから、これは現実の音だろうか。
今までにないほどの光に目を細める。
箱を持ち上げると鍵と鎖が光に包まれていて、サーッと光の粒子に変わって風に飛ばされていった。
箱の蓋がゆっくりと開いた。
その瞬間、自分の頭の中に何かが入ってきた。
それは大切な人達のことで、どうしてこんなに大切なことを忘れてしまったのだろうと思う。
それと同時に鈴成さんを裏切り続けていた自分が許せない。
どんなに謝っても、許されることじゃない。
でも抱き締めてくれる腕は前と同じで、嬉しくて、悲しくて、涙が溢れた。
「え? 静?!」
驚かせてごめんなさい。
本当なら色々話さないといけないのに。
「大丈夫だよ」
背中をポンポンと叩かれる。
叩いてくれる手のひらから鈴成さんの優しさが伝わってくる。
「これからはずっと一緒にいよう」
嬉しいはずなのに胸が痛くなる。
秀明さんとのことを全部知ったら、いらないって捨てられるだろう。
それならもう一緒にいない方がいい。
待ってて欲しいなんてそんなことを思う資格なんか初めからなかったんだ。
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