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第275話.車内
✳︎時間経過注意
✳︎みんな側からの視点です
「本当に静に会えるんですよね? 目を覚まさないっていうのは心配だけど、生きてる姿が見られるだけでも嬉しいな」
「僕は早く笑顔が見たい。はにかんだような可愛い顔」
誠の言葉に全員が頷くが、それはまだずっと先のことだと暗い表情になる。
「それはまだ難しそうだな。でも、昨日少しだけいい兆候が見られたんだ。このまま体調が安定してくれれば、静も一緒に東京に帰れると思う」
明は病院に向かって運転しながらまだ一言も話さない鈴成のことが気になっていた。
「本当に? そしたら毎週会いに行けるね〜!」
ニコニコと無邪気に笑う誠は、急に悲しそうな顔になる。
「本当は早く戻ってきて欲しい。あの部屋には静がいないとダメなの」
「誠、泣かないって決めただろ?」
「だって!」
敦のシャツをギュッと握って涙を流さないように頑張る誠に、車内はしんみりとした雰囲気になる。
「すいません、誠は静に会えるのが嬉しいけど、声が聞けないっていうのにショックを受けてて」
敦は“それはオレもだけど”という言葉を飲み込む。
「誠くんも敦くんも辛いよね。泣きたい時は思いっきり泣いた方がいいよ。僕でよければ胸貸すし」
「拓海さん、ありがとうございます。でも、泣くのは静が目を覚ました時だって決めたんです。誠は無理そうですけど」
「僕も泣かないっ!」
もう涙が流れそうなくらい目に涙を溜めているのに、誠はそれをシャツの袖口でゴシゴシとするとキュッと目に力を入れる。
「河上くんも佐々木くんも強いね。俺は静の姿を見ただけで泣きそうだよ」
「「鈴先生」」
何があっても待つと決めた。どんなに傷ついていてもそれごと包み込めるような心の広い大人であろうとした。
でもやっぱり静に酷いことをした明の父親を許すことは出来ない。
警察に捕まってこれから裁判員裁判が始まる。
静のことも争点になる可能性があると聞いている。
その場合裁判に証人として呼ばれることも考えられる。
傷が癒えそうになった矢先にその傷をえぐられるということだ。
優しい静のことだから他の拉致被害者が行くくらいなら、と自ら証人として裁判に参加すると言いかねない。
鈴成は早く目覚めて欲しいと願う気持ちと、裁判が終わるまでは絶対安静が続けばいいという気持ちがせめぎ合い、どうしていいか分からなくなっていた。
ただ1つ分かっているのは、静のそばにいたいということ。
静が戻って来るまでにもっと素敵な授業が出来る教師になると決めたから、今頑張っている最中だ。
でもその教師を辞めてずっとそばに付いていたいという気持ちも本物なのだ。
「鈴?」
「ん?」
「また変なこと考えてるでしょ。静くんに怒られるような行動はしないって決めたんじゃなかったっけ?」
「やっぱり兄貴には敵わないな。静に会ってから色々決めたいって思うんだ。もちろん、仕事しなきゃあの子を支えられないってことも分かってるから」
拓海は鈴成の背中を優しく撫でる。
「色々と溜め込まないこと。僕はどんな話でもちゃんと聞くから」
「ん。ありがとな」
拓海は心の変化に敏感だ。
仕事柄いつもアンテナを張っているが、自分のことは後回しになってしまう。
明は後で拓海を思いっきり甘やかしたいと思っていた。
「見えてきたよ」
釧路では1・2を争う程の大きな病院だが、東京の大学病院などに比べるとこじんまりとしている。
駐車場に車を止めて全員で静の病室に向かった。
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