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第277話.ひと回りもふた回りも小さくなった

「静っ!!」 名前を呼ぶ声に力が入る。 壊れてしまいそうだと思いながらも抱き締める腕にも力が入ってしまった。 痩せたなんて言葉で片付けて良いのだろうか? 静がいなくなる直前のことを思い出すと、あの時よりもひと回りもふた回りも小さくなったように感じる。 まともに食事が出来てはいないが、点滴は打っているし、今も栄養失調は改善されていると聞いている。 それが本当なのか疑いたくもなってしまう。 「お帰り」 ずっとなんて声をかけようか考えていた。 でも自然と口から出たのはそんな言葉だった。 「ずっと会いたかった。顔、もっとよく見せて」 伸びた前髪を分けて顔を見る。 頰を触ると温かい。 河上くんじゃ無いけど、その温かさに涙が出そうになる。 そう思ったら俺ではなく、静が涙を流した。 「え? 静?!」 その涙は後から後から流れてくる。 見られたくないかなと思ってもう1度抱き締めると背中を優しくポンポンと叩く。 「大丈夫だよ」 静にどんな苦しいことがあったとしても、それごと愛するから。 「これからはずっと一緒にいよう」 俺が離したくないんだ。 だから一緒にいることを許して欲しい。 後から思えばこの時全てを言葉にして伝えれば良かったんだ。 まさか静が俺達のことを思い出して、また傷ついていたなんて思いもしなかった。 暫く静の顔を見ていた。 人形のようにピクリとも動かない。 ほんの僅かでも動かないかじっと見つめるが、悲しい結果しかない。 みんなだって静の顔を見ていたいのに2人きりにしてくれたと思い出して、ベッドの横に置いてある椅子から立ち上がる。 静の頭を撫でる。 「ごめんな、もっとみんなも一緒にいたいよな。連れて来る。すぐ戻るよ」 声の大きさのことは忘れて殆どふつうのトーンで声をかけた。 強いて言えば始めの“ごめんな”だけは少し大きい声だった気がする。 そばを離れようとしたら声が聞こえた気がした。 『待って、行かないで』 それは間違いなく静の声でもう一度顔を見るが、状況が変わったようには見えない。 空耳が聞こえるようになるなんて、よっぽどだなと自嘲気味にクスリと笑うと静に背を向けた。 ドアの方に歩こうとしたら何かにシャツを引っ張られる。 気のせいだと思いつつも振り返ると、シャツの端を静が掴んでいる。 「え?! 静!!」 ドアの方に顔を向けて叫ぶ。 「明さん!! 兄貴!!!」

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