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第278話.僅かに動いた?!
「鈴? 呼んだ?」
結構大声で叫んだつもりだったが外には上手く伝わらなかったらしい。
「兄貴! 来てくれ」
「どうしたの? ………え?! これって、手が動いたってことだよね?」
「ああ、動いてるところは見てないけど、しっかり握って離さないんだ」
「とにかくみんなと先生呼んで来るから、鈴は静くんのそばにいてあげて。それと、その様子を動画で撮っておいて。もし離したとしても握ってたっていうのを先生に見せるから」
「分かった」
後ろポケットに入れているスマホを取り出すとカメラを起動させて動画を撮り始めた。
声が聞こえた気がした。
喋れないはずだから有り得ないことなのに、切羽詰まったようなあの声が耳から離れない。
『待って、行かないで』
俺がそばにいることも、離れようとしたことも分かってた?
ん? その前に、俺のことを思い出したのか???
そんな都合のいいことなんてあり得ないか。
まだサファイアの治療には入れてないのだから記憶が戻る訳がない。
みんなと一緒に先生と看護師さんが来た時も静は俺のシャツを握ったままだった。
それとは反対の手を握って先生は声をかける。
「静くん、聞こえているなら私の手を握って欲しい」
その手を見つめるが動いた様子はない。
「えっと、あなたが声をかけてみてくれますか?」
先生は俺をジッと見つめる。
「俺ですか? はい。分かりました」
静を見つめて声をかける。
「静、俺の声が聞こえるか? 聞こえたら手を握ってくれ」
俺が声をかけても手が動く様子は見てとれない。
「……僅かですが握り返してくれましたよ。おそらく目を覚ますのもの時間の問題だと思います。やはり、近しい方々の声かけは効果絶大ですね」
「本当に動いたんですか?」
先生の言葉を疑う訳ではないが思わず聞いてしまった。
「ご自分で確かめて下さい」
先生が離した手を握って声をかける。
「静! もう1度手を握って欲しい」
僅かにキュッと圧迫される。
弱々しくてもそれは静の自発的な動きで、嬉しくて仕方がない。
これで耳が聞こえることも分かった。
それからしばらくはみんなで静の手を握って声をかけまくった。
面会時間が終わる頃には静は酸素マスクをつけられた状態になっていた。
「鈴成くん」
「明さん、どうかしましたか?」
「いつもは俺か晴臣が泊まり込みで静の様子を見ることにしているが、今日は鈴成くんにお願いしたい。一度旅館に荷物を置きに行って、風呂を済ませたらまたここまで送るから」
「俺でいいんですか?」
明さんはにっこりと笑う。
「静が喜ぶから。それと俺も晴臣も疲れが溜まっててね。ゆっくり風呂に入って寝たいんだ。もちろん何かあればすぐに連絡してくれて構わないから」
「ありがとうございます。俺もそばを離れたくないです」
みんながいて泣きたくても泣けなかった。夜中なら泣いても平気かな。
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