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第279話.手から優しさが伝わる

聞こえてきたのは鈴成さんの声。 「ごめんな」 聞き逃してしまいそうなほど小さな声だった。 でも聞き間違いではない。 鈴成さんも僕が汚れてるって分かったから、一緒にいたいって言った言葉を無かった事にしたいのかな。 待ってて欲しいと思う資格がないってそう思ったし、捨てられるのなら今1人になった方がいいって分かってる………つもりだった。 このまま鈴成さんがいなくなったら、もう2度と会えない気がした。 暗闇で膝を抱える僕はそんなのは嫌だと叫んでる。 こんな時でも体は動かない。 声も出ないと分かっていたが必死に叫ぼうとした。 『待って、行かないで』 立ち去ろうとした鈴成さんが足を止めるのが分かる。 それでも背中を向けられて、がむしゃらに動けって願った。 前に本気で声が出て欲しいって思ったら出るようになった時と同じくらい……それ以上に強く動けって思ったら、ほんの少し動いて鈴成さんのシャツに触った。 それを必死に掴む。 鈴成さん、ごめんなさい。 僕はやっぱり一緒にいたい。 「え?! 静!!」 また驚かせてごめんなさい。 まだ僕の名前を呼んでくれるなんて嬉しい。 「明さん!! 兄貴!!!」 明さんと拓海さんを呼んでる。 このシャツを掴んで離してはいけないって思う。 暫くして先生の声がした。 「静くん、聞こえているなら私の手を握って欲しい」 握る? そうしようと思ったけどうまく動かない。 先生も呆れて僕のこと見放してしまうかもしれない。 「静、俺の声が聞こえるか? 聞こえたら手を握ってくれ」 不思議と鈴成さんの言葉には素直に体が反応する。 ほんの少しだけ先生の手を握った。 その手が離れたら、鈴成さんが手を握ってきた。 それはいつも優しくて温かい。 「静! もう1度手を握って欲しい」 両手に力が入る。 優しく握られた手が僕の動きに連動してキュッと握り返される。 それがなんだかとても嬉しかった。 その後は両手を敦と誠が握ってきたり、明さんも拓海さんも晴臣さんも順番に手を握ってくれた。 みんなの優しさが胸に染みる。 こんなに幸せな気持ちになっていいのかな???

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