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第280話.出られない

✳︎前半は拓海視点、後半は静視点です。 「じゃあ、鈴が戻るまでは僕がここにいるね」 「なるべく早く戻るよ」 「ゆっくりでいいよ。僕だって静くんと一緒にいたいから」 鈴は明さんに連れられて、みんなと一緒に行ってしまった。 晴臣さんも一緒行ったからしばらく静くんと2人きりだ。 「聞こえてるんだよね? 少し僕の話を聞いてね」 静くんの頭を撫でて手を握ると話しかけた。 「疲れてるだろうし、返事とかは無くていいよ」 大きな声で独り言を言うようなもので、少しだけ恥ずかしい。 でも今から話すのは結構重要なことだ。 「先生はすぐにでも目を覚ますようなことを言っていたけど、僕はそうは思わない。変なこと考えてるよね?」 相変わらず表情は全く動かない。 それは出会った頃の静くんを彷彿とさせる。 「自分は汚いとか、みんなと一緒にいる資格がないとか 考えてるでしょ?」 驚いたからなのか手が僅かに圧迫される。 「やっぱりそうなんだ。でも、そう考えるってことは僕達のことを思い出したんだね? それは純粋に嬉しいよ」 酸素マスクで触れるところは少ないけど、頰を触る。 「静くんは今も綺麗だよ。10ヶ月前と何も変わらない、変わってない。………全力で否定してるかな? だって、心はずっと僕達のところに、鈴のところにあったでしょ?」 反対の頬も触る。 「僕達は、敦くんや誠くんも含めて、全員静くんに何があったのか知ってるよ。全て晴臣さんと吾妻さんから聞いたから。それでも、誰も静くんのことを汚ないとか思ってない。そんなことより静くん自身が大丈夫かなって心配してた」 握っていた手を離してギュッと抱き締める。 「心を閉ざさないで。他の誰かが何を言っても僕達は静くんを信じているし、大好きだから」 涙が溢れてきて、抱きしめることしかできなかった。 ーーーーー(視点切り替え)ーーーーー 拓海さんが僕を綺麗だと言った。 そんな訳ない! みんなのこと忘れてたとはいえ、秀明さんに自ら体を開いた僕はとても汚ない。 確かに心はいつも虚しくて空っぽだった。 サクさんやリオさん達が心の支えで、夢の中に出て来てくれてた鈴成さんが心の拠り所だった。 敦も誠も、もちろん鈴成さんも秀明さんにされてたことを知ってるの? でも、それは嫌がってたってウソを教えられてるでしょ? 心は拒絶してた。でもそれと裏腹に体は熱く火照って、喜んでた。 嫌だ嫌だって思ってても、気持ちいいって僕が僕自身を裏切っていた。 こんな僕が綺麗なみんなのそばにいるなんてやっぱり許されない。 「心を閉ざさないで」 やっぱり拓海さんはすごいな。 僕の気持ちが分かってる。 「他の誰かが何を言っても僕達は静くんを信じているし、大好きだから」 ありがとう、拓海さん。 僕もみんなのこと大好きだよ。 大好きだから、汚ない僕は一緒にいちゃいけないんだ。 暗闇の出口を見つけて手をかけたけど、その手を引っ込めて僕はまたその場に座って膝を抱えた。

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