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第283話.【敦の過去編】①
鈴先生と明さんと一緒に静の病室に着くと、拓海さんは大きな声で静に話しかけてた。
オレ達に気がつくと一旦話すのをやめてこちらを見た。
「あれ? 敦くんも一緒なの?」
「はい。今の静の気持ちを1番わかるのは中学の頃ビッチだったオレかなって思って」
「そういうこと言わないの。敦くんにそう思わせた相手が最低な愚か者だったんだから。敦くんも、もちろん静くんも綺麗だよ」
拓海さんに抱き締められて泣きそうになる。
オレの親がこんな人だったら、変な人について行かずに済んだのかな?
でも、そうだったら今ここにいないかもしれない。
静とも潤一とも会わない人生を送っていた?
それはひどく味気なく、薄っぺらいものに感じる。
「じゃあ俺は外にいるから、何かあったら呼んでくれな」
鈴先生は遠目に静を見て微笑むと病室を出て行ってしまった。
「拓海さんは明さんと一緒に旅館に戻ってね。夕飯も食べないとでしょ?」
「一人で平気? 何かあれば連絡してね。この病室は携帯電話使用可能だって確認取れてるから」
「はい、ありがとうございます」
拓海さんは静の頭を撫でると声をかけた。
「また明日来るからね」
静の表情は変わらない。
でも、纏う雰囲気が柔らかくなった気がする。
拓海さんは静の心に寄り添ってあげたんだなぁって思った。
もしかしたらこれから話すことがより静を傷つけることになるかもしれない。
それでも、今だからこそ静に聞いて欲しいんだ。
わがままでごめんな。
オレはさっきまで拓海さんが座っていた椅子に座って、静の手を握った。
「静、ここにいるのが鈴先生じゃなくてオレでごめん。少し長くなるけど、オレの昔話を聞いて欲しいんだ」
オレの言葉に返すように手を握り返された。
さっきより力が強くなっている気がするのはオレの願望かな………?
「オレが中学1年の時のことなんだけど………」
ーーーーー(敦の過去編)ーーーーー
✳︎敦視点で進みます
「敦、僕もう走れないよ」
「誠は体力なさ過ぎだなぁ、遅刻してもいいの?」
「それはダメ! 頑張る!」
中学に入ってすぐに仲良くなったのは、まるでテディベアのような可愛い男の子で、名前を河上誠という。
オレの恋愛対象は全人類かも?! なんて思うほど広い。
男も女も関係ない。女の子との経験はそれなりにあるが、男との経験はまだ無い。
スマホで色々と調べると、女とするより男とした方が気持ちいいとか、タチよりネコの方がヤバイとかなんかよく分からないことが書いてある。
興味はたくさんあるけど、誠は恋愛対象外だ。
こんな天使と付き合うってことが現実的じゃないっていうのもあるが、弟を見ているようでその気になれない。
予鈴ギリギリに校門をすり抜けて、今日も遅刻を免れた。
校門をすり抜けて直ぐにいつものネトっとした視線に気がつく。
思わず足を止めて振り向くが誰もいない。
「敦? 早く行かないと!」
「げっ、ヤバっ」
毎朝感じる変な視線。
気のせいかもしれないと思って、誰にも相談しなかった。
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