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第284話.【敦の過去編】②

変な視線は朝だけじゃなく、帰り道にも感じるようになっていた。 誠が変質者に狙われやすいのを知っていたから、彼氏だとか思われてるのかな? なんて短絡的に考えてた。 数日視線を感じなくなって、諦めたのかなって思ったら、誠を家まで送ってそこからの帰り道に知らない男の人に声をかけられた。 真面目そうでメガネをかけたその男の人は、大学生くらいに見える。顔も整っていてイケメンだと思った。 「ねえ君、ここにはどう行ったらいいか分かる?」 紙をペラっと渡される。 思わず受け取ってその手書きの地図を眺める。 図書館への行き方が書いてあった。 「図書館なら2つ隣の道沿いにありますよ」 あっちです、と指を指すとその人は『ありがとう』とニコッと笑うと歩いていなくなった。 笑った顔が綺麗で思わずボーッと立ち尽くしてしまった。 ハッと我に返って急いで家に帰る。 「ただいま!」 「敦? おかえり。お姉ちゃんは勉強中だから静かにね。あ、(とおる)ちゃん、どうしたの?」 「にいに、おかえりなの」 キャッキャと嬉しそうに手を叩く弟はオレから見ても天使で可愛い。 姉の(れい)は小さい頃から才女で、両親の期待を一身に背負っている。 弟の透はまだ3歳で、両親の保護が無ければ何も出来ない。 真ん中のオレは成績も普通、運動神経も普通で両親に期待されたことも無ければ、玲姉ちゃんの邪魔をしないように! といつも言われていた。だから家では誰の邪魔にもならないようにひっそりと過ごしていた。 「透、ただいま」 手を洗わずに触ろうとすると母親に手を払われるから、ニッコリ笑うだけ。 そのまま洗面所に行って、手洗いうがいをした後はひたすら自分の部屋で一人で過ごす。 食事もオレだけは部屋で食べる。 一度覗いたら、オレの食事と他のみんなの食事は雲泥の差で、家族間でこうも食事を変える意味がわからないと思った。 学校の友達からは自分の誕生日にこんなの貰ったとか、こんなケーキ食べたとか話を聞くけど、オレはプレゼントを両親からもらった記憶が無い。 誕生日だと聞かされた日の食事もいつも通りレトルトを温めただけのもの。ケーキなんて用意されたことも無い。 それとは真逆で、玲姉ちゃんと透の誕生日は盛大に祝われる。 豪華な食事と大きなケーキ、そしてプレゼント。 初めのうちは羨ましいって思ってた。 でも虚しくなるから色々と考えるのをやめた。 玲姉ちゃんと透の誕生日に一緒に食卓を囲めるだけでも奇跡みたいなもので喜ばなくちゃいけないんだ。 オレは必要ない子供なんだろうなぁって昔から思っていた。 母親が余程忙しい時でなければ、透と遊ぶことも叶わない。 オレは信頼されてないって突き付けられる思いをどんどんと膨れ上がらせて、その捌け口を探していた。 道を聞かれた数日後、あのお兄さんにまた話しかけられた。 「君、この前はありがとう」 「あ、あの時の。すぐに分かりましたか?」 「うん、君のお陰でね。ずっとお礼が言いたかったんだ」 「お礼だなんて、困った人を助けるのは普通の事ですよ?」 お兄さんはオレを見て首を傾げる。 「元気ない? 何かあったのかな? 俺でよければ聞くよ?」 こっちと言われて、すぐ近くの公園のベンチに隣り合わせで座る。 「俺の名前は眞尋( まひろ)、君は?」 「敦です。眞尋さんは大学生?」 「うん、敦くんは中学生かな?」 「そうです」 眞尋さんは少し真剣な顔をしてこっちを見ていた。 「眞尋さん?」 「友達と何かあったの?」 至極当然な質問だけど、違うから首を横に振った。 「ということは家族?」 知らない人だから話しても大丈夫だって思ってコクンと頷く。 「何があったの?」 優しい声に口を開こうとしたら、知った声がした。

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