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第286話.【敦の過去編】④
あの後結局背中の傷の手当てをすることもなく、過ごしていた。
怪我をした次の日までは痛みもあったが、2日もすると痛みもなくなって問題ないって思ってた。
それが数日後に急に熱を出してしまった。
玲姉ちゃんと透に移す訳にはいかないから、体がだるくても家にいることは出来ない。
学校に行けば帰るように言われるだけだし、どうすればいいのかわからない。
とりあえず公園のベンチに座ってボーッとする。
でも、よく考えたらここは母親と透が毎日遊びに来る公園だから見つかってしまうかもしれない。
そう思うのに体は言うことをきかない。
1番目につきにくいベンチに座っているからか、幸いにも誰にも見つからない。
「あら、透くんのお母さん。いつ見ても可愛いわね。こんにちは、透くん」
「こんちはっ」
「満智瑠 、透くんが来たわよ。一緒に遊んで」
「みっちゃん、こんちは」
「トオル、こんちは」
眠りそうになった所にまた声が聞こえてきた。
「そういえば、この前透くん事故に遭いそうになったんですって? ちょうど通りかかったお兄ちゃんの敦くんでしたっけ? 彼が助けたって聞きましたよ! なんか背中に怪我までしたって聞いたんですけど、大丈夫ですか? 走って来るトラックに向かって走るなんて、弟が大好きなお兄ちゃんなんですね〜。敦くんのこともちゃんと抱き締めてあげました?」
「え? 敦の事を? それに怪我って?」
心底不思議そうな声を上げる母親にまた絶望する。
これ以上愛されてないって突きつけられるのは辛い。
「え? 何でも背中にトラックが掠ったとかで、しばらく動けなかったらしいって………違うんですか?」
話題にされたからか背中がジンジンと痛み出す。
体は勝手にガタガタと震えて、朝よりも熱が上がっていることがわかる。
「ああ、大袈裟ですよ。傷なんて大したことなかったし、弟を兄が助けるなんて当たり前でしょ?」
傷があるなんて知らないくせに!
世間体が大事な母親は知らない事も知っている事に変えてしまう。
「中学一年生でしたよね? まだまだ母親に甘えたい年頃だと思いますけど。偉かったねって頭を撫でる位はしてあげないと可哀想ですよ」
「あの子にそういうのは必要ないのよ。昔から中の中で何の取り柄もないんだから、そのくらいはしてもらわないと割に合わないわ」
必要ないと決めつけてるのは母さんだ。
ミチルくんのお母さんの優しさが身に沁みる。
これ以上は聞きたくなくて、耳を塞ぎたいのに手がピクリとも動かない。
喉の渇きもそろそろ限界を越えそうだけど、体が動かないから何も出来ない。
このままここにいれば、誰に見つかる事もなく母さんから離れられる?
もうこんなに胸が痛くなるのは嫌だ。
意識が朦朧として、寝ているのか起きているのかも分からない。
どこか一点を見ているような、どこも見ていないような不思議な感覚がする。
「え? 敦くん? すごい汗。ごめんねおでこ触るよ………熱い! 病院行こうね」
誰かが話しかけて来た? ああ、死神かな?
楽になりたい。
「……ん………?」
目を開けるとそこは地獄、ではなく病院のようだ。
「あ、起きた? 連絡先が分からないから、まだ家には連絡出来てないんだ」
申し訳なさそうに話すお兄さんは……眞尋さんだった。
「眞尋さん? え? オレ寝てた……今何時ですか?」
「夕方の6時になるところだけど」
「帰らなきゃ!」
勢いよく起き上がると頭はクラクラして、背中もズキズキと痛む。
でも6時までに帰らなかったら、家に入れてもらえない。
そういう決まりになってる。今日は野宿しないといけない。でも、家の裏に回れば物置があって、そこに毛布もある。段ボールを何枚も重ねたものも置いてあるから体が痛くなる事もない。
「君、名前は?」
先生が来て、聞かれた。
「佐々木敦です」
「佐々木って透くんの所の敦くんか。ここに来るのは幼稚園の頃以来か? 大きくなったね。お母さんには私から連絡するよ。今日は念の為入院しなさい」
「入院? でも……」
「医者命令だよ」
そう言われてしまえば、オレに選択肢なんてない。
「それじゃあ俺は行くね。お大事に」
「眞尋さん、ありがとうございました」
出て行こうとした眞尋さんが戻ってきて手を振り上げられる。
その光景に体がビクリと強張る。
眞尋さんはオレの頭を撫でてニコッと笑った。
「またね」
一瞬殴られるかと思った。
眞尋さんがそんなことする訳ないのに。
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