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第293話.【敦の過去編 2】①

家にみんなで帰ってその日は母さんと父さんと透と一緒に寝た。 玲姉ちゃんは勉強もあるからってドラマが終わったら、1人で部屋に戻っちゃった。 恥ずかしかったのかな。 ずっと1人だったから、寝る時に誰か隣にいることが慣れなくてなかなか寝付けなかった。 それでも母さんと父さんが穏やかな顔してるから安心できた。 いつもより早起きしてリビングに行くと朝の挨拶をされる。 「おはよう、敦。ご飯の用意手伝って。あ、その前に顔洗ってきなさい」 「おはよう! 顔洗ってすぐ戻るね」 テーブルの昨日の夜座った席にもちゃんと準備が始まってて、嬉しくて泣きそうになる。 もう1人でご飯を食べることもないんだ 家での生活が安定してくると、学校でも勉強に身が入るようになった。 ひとつでもわかることが増えるのは嬉しいし、実は勉強が好きなのかもしれないと思い始めている。 学校に戻って1週間くらいした頃だったかな、また変な視線を感じるようになった。 母さんや父さんに相談しようかとも思ったけど、勘違いかもしれないしそのままにしてしまった。 そんなある日の帰り道に眞尋さんを見かけた。 「眞尋さん!」 「ん? 敦くん、体調はもういいの?」 そうだった。あの日悠人先生の所まで運んでくれたのは眞尋さんだった。 色々あり過ぎて忘れてた。 「はい、もう大丈夫です。あの時は病院まで運んでいただきありがとうございました。あれから家族とも仲直り出来たんですよ」 「そっか、良かったね」 「あの………」 「どうかした?」 眞尋さんは優しく微笑みながら聞いてきた。 「前に言ってくれた勉強を教えてもいいっていうのは、まだ有効ですか?」 「もちろんだよ」 「教えて下さい、お願いします! あと連絡先も教えて下さい」 JOINの交換をして、メッセージを送る。 「帰りが遅くなることもありますよね? オレの親に会ってそういうこともあるって言ってもらえたら嬉しいけど、迷惑ですよね?」 「いいよ? 今から挨拶しに行こうか?」 「ええっ?! いいんですか?」 「元々俺から言ったことだよ? そんなに驚くこと無いだろ?」 身長差があるから仕方ないのかもしれないけど、眞尋さんは話す時に覗き込むようにする。 すこし顔が近づいてドキドキする。 「オレの家はこっちです」 なんだが居心地が悪くて、眞尋さんに背を向けると歩き始める。 振り向くことなく家まで歩いたから、眞尋さんがどんな顔をして付いてきていたかなんてオレには分からなかった。 「ただいま! 母さんいる?」 「敦? おかえりなさい。あら? その方は?」 「初めまして。W大学に通う吉田眞尋といいます。敦くんとは道を教えてもらったのをきっかけに友達になりました。勉強を教えて欲しいと言われたので、週に何回か図書館に行こうと思っています。その日は帰りが遅くなることもあるかと思いますが、僕が家まで責任を持って送りますので、許して頂けますか?」 母さんは眞尋さんの話を聞いて驚いていた。 「ご迷惑じゃありませんか?」 「いえ、実は中学の教員免許を取ろうと思っているので、僕としても予行演習になりますから」 「よろしければ、敦の部屋を使ってはいかがかしら」 「あー、家だと誘惑が多かったり甘えが出たりするので、図書館の方が効率的だと思いますよ」 「そこまで考えてくださってるんですね! 全面的に吉田さんにお任せします」 きっと母さんは俺が勉強を教えて欲しいって言ったのを驚いたんだろうなぁ。 「大学の講義の関係で火曜日と金曜日に出来ると思います。遅くても6時半までには送り届けます。もし、それよりも遅くなる時は必ず連絡を入れますので」 「分かりました。主人には私から話しておきますね」 眞尋さんはオレには難しくてなかなか得られなかった母さんの信頼をすんなりと勝ち取った。 「じゃあ、敦くん。明日から始めるよ?」 「はい! また明日!」 「うん、また明日ね」 送ろうかと思ったけど、中学生に送られる訳にはいかないって断られてしまった。

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