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第295話.【敦の過去編 2】③
図書館に着くと眞尋さんは図書館の前に立っていた。
いつもよりもオシャレな格好をしている気がする。
オレと一緒に出かけるから? なんて考えはすぐに打ち消す。
あのキスの意味も聞かずにデートだって言われたお出かけに本当に一緒に行っていいのか迷って、急に足が動かなくなる。
「敦くん、学校お疲れ様」
少し離れた所にいたオレに気が付くと眞尋さんは駆け寄ってきた。
いつも通りの眞尋さんでホッとした。
あのキスは気の迷いだったのかな? だったらいいな。
「眞尋さんも大学、お疲れ様です」
笑顔は本心からなのか今までのように作られたものなのか、どっちなのかよく分からない。
それでも笑っているのは間違いない。
「敦くんのお母さんには今日の帰りは遅くなるって連絡したからね。たまには夕飯も一緒に食べよう」
「え? 母さんは何て?」
「よろしくお願いしますって言ってたよ? 俺としては認められてるようで嬉しいな」
相変わらずキラキラとした笑顔だ。
年の離れた兄さんだと思って出かければいいか。
結局“デート”と自分は思わずに一緒に出かけた。
誠と出かけるのとは違くて、色々なところでエスコートされているみたいだった。
道を歩く時も車道側には必ず眞尋さんがいて、寄ってみたいと思った店に入る時も扉を開けて待ってくれた。
どちらかというとそういうのは自分がするものと思っていたから、とにかく違和感が半端ない。
「あの、オレ女の子じゃないんで、扉とか自分で開けられますよ?」
女の子でも問題なく開けられるとは思うんだけど、とりあえずそう言ってみた。
「気にしないでいいよ。俺がしたくてしてるだけだから」
んー、切り返しが男前で更にキラキラ笑顔で言われて、何も言い返せない。
繁華街を歩いていたら、お小遣いが貯まったら買いたいと思っているブランドのお店を見つけた。
思わずガラス越しに中を除いてしまう。
新作がディスプレイされているが、どれも好きだ。
「ここの服好きなの?」
「はい、お小遣いが貯まったら買いたいって思ってるんです」
「そっか。気になるなら試着だけでもしてみたら? 試着だけならタダだし。俺もたまにやるんだ。着てみて鏡でその姿を見ると絶対に買うぞーって励みになるんだよね」
いたずらっ子のようにイシシって笑う眞尋さんを見て、思わず頷いてしまった。
店内に入ると何だか注目を浴びている気がした。
眞尋さんがイケメンだからかな?
関係性が見えない2人組だからかな?
服を見ていたら店員さんが近付いてきた。
「いらっしゃいませー。どういったものをお探しで?」
「え? あの、その、短パンってありますか?」
「でしたらこちらとか、こちらも。お試しになられます?」
「はい」
「こちらになります。あ、買わなくていいからトップスもこれ、着てみて下さい。きっとお似合いになると思うので」
「はあ」
何故だかノリノリの店員さんに試着室に連れていかれ、真っ白なマイクロミニの短パンとネイビーのトップス、逆にネイビーのふんわりとした短パンに白のトップスを渡される。
本当に似合うのかな?
心配しかない。
そういえば眞尋さんはどこに行ったのかな?
試着室に入る前に店内を見回すと、あちらはあちらで店員さんに捕まっていた。
まずは白の短パンとネイビーのトップスを着てみる。
着心地もいいし、結構似合ってると自分では思う。
「いかがですかぁ?」
店員さんに声をかけられたから、そのまま試着室から出る。
「あの、着心地いいですね」
「やっぱり! よくお似合いで! 足、キレイだからですね」
「あの、声が大きいです」
店員さんの声で注目を集めてしまって、いたたまれない。
「敦くん、本当によく似合ってる。いつも勉強頑張ってるから俺からプレゼントしようか?」
「何言ってるんですか! ダメです。自分で買いたいですから」
「そう? じゃあ、お小遣いの無駄遣いしないように気をつけようね」
「はい」
「あのー、もう1つの方も着てみて頂けますか?」
店員さんが申し訳なさそうに口を挟む。
「すみません! はい、着てみます!」
ふんわりとした短パンは履いてみるとミニスカートにも見える。
女装しているみたいでなんだか恥ずかしい。
試着室から出るとまた注目されてしまう。
「思った通りよく似合ってます! 可愛い」
可愛い?! オレには縁遠い言葉にありえないと、首を横に振る。
「本当に可愛い」
呟かれた言葉と、ネトッとした視線に違和感を感じる。
「やめてください。恥ずかしいです」
でもそれは一瞬のことで、眞尋さんを見てもいつも通りだった。
変な視線は違う人のものだったのかな?
そんな疑問も着替えてお店を出る時には無くなっていた。
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