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第296話.【敦の過去編 2】④
「本当にいいの? 遠慮しなくてもいいのに」
眞尋さんは何度も買ってあげるって言ってきた。
でもやっぱりそれは違うと思う。
欲しいものは自分で手に入れることに意味がある、そう思うから。
「遠慮とかじゃないです。欲しいものは自分の力で手に入れたいので」
「そういうところは敦くんも男なんだなぁって思うよね」
そういうところ………?
それ以外は男だって認められてないのかな?
ちょっとよく分からない。
「夕飯何か食べたいものある?」
「えっと、お金を3000円しか持ってないので、それで行けるところに………」
「そんなこと考えなくていいよ。夕飯にかかったお金は後でお母さんが払うって言ってたから」
そうだよね。そんな安い店になんか行きそうもないもんね。
「あまり高そうなお店は緊張して味も分からなくなりそうなので、庶民派でお願いします」
そう言ったオレをキョトンとした感じで見て、眞尋さんは笑った。
「わがまま言ってくれていいのに。それなら、カジュアルなイタリアンのお店にしようか?」
イタリアンって聞くだけで高級そうだけど、その提案に頷いた。
そのお店は繁華街からは少し外れた閑静な所にあった。
カジュアルなんだろうけど、お店に入るといるのはカップルばっかりだった。
人気のお店なのか待っている人もいる。
眞尋さんはその待っている人を気にすることもなくどんどん足を進める。
「え? 待たないと………」
そんなオレの言葉にニコッと笑うと店員さんに話しかける。
「予約した吉田です」
いつの間に?!
「吉田様ですね? お待ちしておりました。2名様でお間違えないでしょうか?」
「はい。ほら敦くん、行くよ?」
通されたのは他の席とはちょっと離れた所で、ライトアップされた庭がキレイに見える席だった。
「この席、素敵でしょ? 連絡した時に空いてて良かったよ」
うーん、やっぱりカジュアルじゃない気がする。
中学生のオレが来ていい店なのかな?
始めは緊張したけど、庭を見渡せる方に座らせてもらって、眞尋さんが面白い話をたくさんしてくれたから食事を楽しめた。
少し前までレトルトものか給食位しか食べたこと無かったし、今だって母さんが作った料理しか食べてないから、レストランの料理がこんなに美味しいと初めて知った。
眞尋さんが頼んでくれた料理はどれも美味しくて、お腹いっぱいになるまで食べちゃった。
「ちょっとお手洗に行ってきます」
「行ってらっしゃい。あの柱の裏にあるよ」
「ありがとうございます」
トイレの鏡で自分の顔を見ると楽しそうだった。
年の離れた兄さんとのお出かけは自分で思うよりも楽しめたみたい。
エッチなお誘いなんて無くて、そんな馬鹿なことを考えてた自分が恥ずかしい。
スマホで時間を見るともう7時半になるところだった。
後は帰るだけだね。
手を洗って紙ナプキンで拭くと席に戻った。
「おかえり、デザート……イタリアンだからドルチェか。ドルチェと飲み物が今きたところだよ。飲み物は紅茶で良かった?」
「はい。うわぁ、美味しそう」
ティラミスとアイスクリームの載ったお皿はココアパウダーとラズベリーのソースでキレイに飾られてる。
眞尋さんはコーヒーを飲んで自分のド…ドル、チェ? を食べ始めた。
オレも紅茶を飲む。ちょっと不思議な味がするけど、本物はこういうものなのかな?
ティラミスが凄く美味しくて、あんなにお腹いっぱいだったのにペロリと食べてしまった。
いつか恋人が出来たらこんなお店でデートしてみたいな。
そう思った事までは覚えている。
家に帰る為に駅に向かって歩いていたことも。
気が付いたらオレは全裸で両手両足を何かに繋がれた状態だった。
「え?! 何これ!」
手も足も動かそうとしてもほとんど動かせない。
「敦くん、起きた? いい格好だね。ああ、本当に綺麗な足だ」
足の指先から太ももの付け根までいやらしく触られて、嫌悪感で背筋がゾクッとする。
「ま、眞尋さん?」
何度も手を往復させて足を触られる。
その足を見る視線は、学校の行き帰りに感じていたものと同じだった。
あれも、眞尋さんだったの?
「ああ、安心していいよ。お母さんには今日はお泊まりでいいって許可は取ってあるから。勉強がはかどるなら帰りは日曜の夜でもいいそうだよ?」
絶望が全身にのしかかる。
どのくらい意識を失っていたのか分からないけど、おそらく約2日間この状態が続くのだろう。
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