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第303話.優しさが苦しい
「どこから聞いてたの?」
「始めから」
「って、母さんとのところから?」
「そう」
話す手間は省けたけど、色々と話すつもりのないことまで聞かれてしまった。
「ずっと、泣く時に涙だけ流すの気になってたんだ」
涙を拭われて、まだ泣いてたんだって気がつく。
「ごめん。今まで話さなくて。驚いた?」
「お母さんのことはね。後半は噂とかでも聞いてたし、何となくだけど知ってたから」
頭を撫でられる。
潤一の手は全く怖くない。逆に安心の塊だ。
「こうするの大丈夫?」
心配されて申し訳なくなる。
「大丈夫だよ。潤一のこと怖いとか思わないし」
「無理してない?」
なんでだろう。
優しくて嬉しいのに、胸が痛い。
呼吸は普通なのに、苦しい。
「そんなことない!………あ、ごめん」
心配してくれてるのに声を荒らげるなんて、最低だ。
また抱き締められそうになって無意識に1歩遠ざかる。
「敦?」
「ごめん、ちょっと1人になりたい」
潤一に背を向けて走る。どこに行けばいいのかなんて分からないけど、今のオレは潤一と一緒にいちゃダメだ。
「敦!」
名前は呼ばれたけど追いかけては来ない。
追いかけて来ないことが分かれば走る必要も無い。
階段に座って頭を抱える。
オレ、何してるんだろう
潤一は心配してくれて、いつもと変わらない態度でいてくれてるのに。
それを台無しにして………もう愛想が尽きたかな?
こんなオレのこと好きだなんて間違いだったって気が付いた?
『あんたなんて産まなければ良かった』
『私のそばに寄らないで!』
母さんの声が頭の中に響く。
本当は今だってそう言いたいの、我慢してるのかな?
そんな訳ない!……でも、そうかも…………。
頭の中がぐちゃぐちゃで混乱してる。
肩を叩かれてすぐに逃げなきゃって思った。
「敦くん、僕だけだから。………少し話そうか」
オレを追って来たのは拓海さんだった。
聞こえた声に逃げようとした足は止まって、拓海さんの目の前に立つ。
「どうして? 旅館に戻ったんじゃなかったの?」
質問には答えずにふわっと抱き締められた。
「拓海さん?」
「思い詰めてた敦くんを残して行けなかった」
「話を?」
「うん。僕も全部聞いてた」
頭を撫でられる。
拓海さんの手も安心できる。
「何かあるかなぁとは思ってたけど、今まで辛かったね。敦くんの明るさは自分を守ることが元だったのかな?」
優しく微笑まれて、また涙があふれる。
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