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第306話.たった1つの条件

拓海さんと一緒に病室を出て、静の病室に戻った。 静の病室には潤一と鈴先生と明さんがいた。 オレの意識は潤一に集中する。 潤一は困ったような笑顔でこっちを見ている。 困らせてるんだ。 今すぐにでも捨てられればこんな顔させないでいられるよなぁ。 ほんの少しの間だけでもそばにいたい。 わがままでごめん。 「敦、話は終わった? 本島も頑張ってるよな、あんなに小さいのにな」 「静は頑張り屋さんだからね。それに比べてオレは……」 静と自分を比べること自体間違ってる。 「どうして本島と比べるの?」 ほら、潤一だって不思議そうにしてる。 「敦は敦なんだから誰かと比べる必要無いだろ?」 1人の人として扱ってくれるのは嬉しい。 潤一はさっきみたいにまた頭を撫でてくれた。 この手を離したくないと思えば思うほど、離さなきゃいけないって思いでいっぱいになる。 それは胸が張り裂ける程の悲しみだけど、潤一が幸せになるために必要なことだから仕方ない。 「敦くんも長谷くんも、ちゃんと話した方がいいよ。敦くん、さっきの部屋使っていいから」 拓海さんは微笑んでそう言うとオレの肩をぽんぽんとした。 きっとさっき話した条件について潤一に聞くようにってことだと思う。 小さく頷いて静の病室を出た。 すぐ後ろから潤一も付いてくる。 さっきの病室に入ると潤一と向かい合う。 覚悟はもう決まってる。 「あのさ、1つだけ質問してもいい?」 「1つと言わずに何個でも構わないよ」 潤一の穏やかな笑顔はもう見納めかな。 「潤一のそばにいるには何か条件とかある?」 「条件? うーん。そういうのは、な………あ、1つだけあった」 あるんだ 何だろう 心も体も綺麗な人とか、明るい子とか言われたら………努力も何も出来ない。 「何?」 潤一の答えが怖くて声が震える。 「敦」 「何? オレのこと呼んでどうするの?」 「違くて。条件が敦だよ」 「え? なんだよ、それ」 「だって敦以外の人好きになる訳ないし、敦がいれば他の人はいなくていいし」 涙が溢れて止まらない。 拭っても拭っても止まらない。 「オレ、絶対に捨てられると思ってた。もう一緒にいられないって」 「バカだなぁ。覚えておいてよ。敦が俺を捨てることがあっても、俺が敦を捨てるなんて絶対にないから」 「オレが潤一を捨てるなんて絶対にないよ!」 「そう? なら一生一緒だな」 何だよ、サラッとプロポーズされたみたいじゃんか。 「敦の過去に何があっても関係ない。敦は可愛くて綺麗で俺には勿体ない恋人だと思ってる。このままずっと一緒にいて、社会に出てもこの気持ちが変わらない自信もある」 「………潤一?」 涙で顔が滲んでよく見えない。 「仕事して、2人で生活できるようになったら、結婚したいって思ってるよ」 涙は量を増し、息も詰まる。 涙だけ流すのが当たり前だったのに、上手く息が出来ない。 ヒック、ヒック、ヒッ 普通に泣いてる? 気が付いたら潤一の胸でわんわんと泣いていた。 嬉しくて胸がキュッとして、自分の気持ちを伝えたいのに声にならない。 「じゅっ、いち、、っっ、、オレっ、、っ、、すきっ、、だい、すきっ!」 胸から顔を上げてちゃんと目を見て言った。 泣きながら笑顔になる。 でも恥ずかし過ぎて、すぐに潤一の胸にポスって顔を埋めた。 「俺も大好きだよ」 耳元で囁く声にまた喜んで、幸せだって思う。 潤一の未来に自分が一緒にいられるなんて夢のようだ。 「これからは無理して笑わなくていいよ。敦はモテるから心配になる」 「オレが、モテる、なんて、、幻想、だよ」 涙はようやく止まったのにまだ上手く喋れない。 泣くってこんなに体力使うなんて初めて知った。 「敦と河上と本島は3人揃ってモテモテなの。全員自覚してないから俺もヒロも、多分鈴先生もいつもヒヤヒヤしてるんだからな」 誠と静がモテるのは分かるけどオレはモテてないよ。 潤一の目がおかしいんだ 「俺の今も未来も敦にあげる。だから敦の今も未来も俺にちょうだい?」 「あげる。返品不可だからな! ちゃんと責任取れよ?」 「やっぱりいつもの調子の敦が1番可愛いな」 「バカっ、可愛いとか嬉しくないし」 本当は嬉しいけど どさくさに紛れてプロポーズされた お互いの今と未来も相手にあげちゃった 束縛されるの嫌いだと思ってたけど、潤一に束縛されるのは心地良いや。 オレ、潤一に溺れてる

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