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第307話.静の優しさ
さっき潤一が困ったような笑顔でいたのには理由があった。
聞いたところによると、明さんから進言があったらしい。
『敦くんだっけ? あの子は何か悩んでるみたいだね。あの子が心から笑える様になるには君の力が必要だよ。君はあの子を救えるかな?』
相変わらず意地悪な物言いだ。
絶対にあのニヤって笑った顔で言ったに違いない。
潤一を困らせるのはオレの専売特許だ。いくら明さんでもそれは許せない。
潤一のおかげで急に元気になったオレは急いで静の病室に戻った。
「さっきとは打って変わって、明るい表情になったな」
クスッと笑われてしまった。
「潤一のお陰です。あ、明さん。潤一のこと困らせるのやめてください!」
「特に困らせた覚えは無いけどな。2人が仲良ければそういうことも無くなると思うよ」
「敦くん、やっぱり心配することも無かったでしょ?」
意地悪な明さんは放っておいて、拓海さんの方に向く。
「拓海さんは何でもお見通しですね。初めてちゃんと泣けたんです。それが嬉しさからきた涙で良かった」
プロポーズされたことはまだ内緒だ。しばらくは自分1人で思い出してニヤニヤしたい。
元々根暗だから、その位は許して欲しい。
「そっか、ちゃんと泣けたんだ。良かったね」
拓海さんに頭を撫でられて嬉しくてふわふわする。
潤一だと胸がキュッとするけど、拓海さんだとふわんと温かくなる。
「うん!」
きっと満面の笑顔だと思う。
「やっぱり敦くんも可愛い」
拓海さんはオレ達のこと息子だって思ってるって言ってたよな。
よく考えたら、拓海さんが母さんだと………明さんが父さんになるよね?
なんかそれは嫌かも。
確かにめちゃくちゃ格好良いけど、意地悪ばかりされそう。
その分、打たれ強くなるかな………?
オレがポジティブな考えになるなんて、潤一のお陰だよな。
「オレが可愛いとかないと思う」
「僕からしたら、これだけ年が離れてたらみんな可愛いけどな」
「え? じゃあ潤一も?」
「うん。はにかんで笑うとことか可愛いと思うよ?」
さすが拓海さん。よく見てる。
笑った潤一って本当に可愛いんだよなぁ。
チラって潤一を見たら目が合った。
柔らかく微笑む潤一はいつもより男前に見える。
ヤバいヤバいヤバい
さっきはあんな事言われて嬉しくて舞い上がっただけだったけど、少し冷静になって潤一のこと見たらヤリたくなっちゃった。
初めて潤一とシてからすぐに静がいなくなって、あれから1度もシてない。
シたいって思わなかった訳じゃないけど、オレも潤一も集中出来なくて結局シてない。
静の目が覚めてないのにって思うけど、あんな事言われたらやっぱり身体でも潤一を感じたいっていうか、何ていうか。
2人きりになったら言ってみようかな………?
でも、北海道に来たのは静に会うためだし、東京に戻ったらって言えばいいかな?
『敦、自分の気持ちに素直になって』
静の声がまた聞こえる。
オレ以外には聞こえてないよね。誰も驚かないし。
オレの願望が静の声で聞こえてくるのかな?
横になって呼吸器がつけられた静は、自分の事よりもオレのこと心配してくれてるのかな。
静の優しさはいつも見習わなきゃって思ってる。
自分の事よりも他人の事が優先で、それが当たり前で。
オレだけでも自分の事より静を優先しようって思うけど、意外と難しい。
心の中で静に話しかける。
『静、ありがとう。大好きだよ。色々と話したい事があるんだ。目を覚ましたら、たくさん話そう』
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