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第314話.溜め息

朝から何度目かの溜め息に明さんが苦笑する。 「どうした?」 「どんな顔をして敦くんに会えばいいのかわかりません」 温泉でエッチなことをしたことだけでも恥ずかしいのに………エッチなことをしていると明さんの言葉は絶対になってしまう。 だからといって敦くんとキスしていいわけでもないし、乳首をいじっていいわけでもない。 明さんにはその事を理由にお仕置きだって、部屋に帰ってからもたくさん抱かれた。 そのこともあって敦くんが大変な目にあわなかったか気になる。 「別に普通に今まで通りで大丈夫だよ」 ポンと頭に手を置いて顔を覗き込まれてニコッと笑顔を見せる。 意地悪な笑顔ではなくて普通の笑顔を見せられて“大丈夫”の言葉にホッとする自分がいるが、このまま何も無かったことには出来ない。 「そうは思えません。朝食の前に少し話してきます」 敦くんのいる部屋は分かっている。 「はいはい。行ってらっしゃい」 着崩した浴衣姿が格好いい明さんを部屋に残し、敦くんのいる部屋に向かう。 部屋をノックしたらドアを開けたのは長谷くんだった。 忘れてたけど長谷くんにも色々と見られちゃったよね。 「おはようございます」 「うん、おはよう」 「拓海さん、おはようございます」 「おはよう、敦くん。ちょっといい?」 普通に挨拶をされたってことは気にしてないのかな? 廊下で話すことでもないので、エレベーター前の椅子に座る。 「昨日はごめんね」 「え?」 「え?」 「謝らないで下さい。潤一とシたいって思ってたからオレとしてはお礼を言いたいくらいなんですよ」 「でも、僕と………」 ニコニコと笑顔で話す敦くんが眩しい。 だからキスしたとかそういう事は言わない方がいいかなと思って声が出にくくなる。 「キス、ですか? 優しくてあったかいキスでしたよ?」 「あの後平気だった?」 「え? あ、もしかして拓海さんはあのキスをネタに明さんにいじめられました?」 言い当てられて恥ずかしさに顔が熱くなる。 「朝まで離してもらえなくて」 「うわぁー、明さんも拓海さんも絶倫ですね。オレは大丈夫ですよ。2人がいなくなってからも温泉と脱衣所でシちゃったけど………」 あれだけ気持ちよさそうだったのだから、それはそうだろう。 「絶倫って、明さんだけでしょ」 「それについていけたら絶倫決定ですよ?」 言われた意味は何となく分かる。分かるけど認めたくはない。 「そうなのかなぁ? 僕は至って普通だと思うんだけど」 「明さんと付き合ってる時点で普通じゃないと思います」 大野家の当主だもんね。静くんがいなかったら出会うこともなかっただろうしなぁ。 「それより、やっぱり中出しってすごかったです?」 急に小さい声になったと思ったら、またこんな答えずらい質問をして。 「好きな人相手だからね、幸せだったよ」 「そうですよね………潤一はしてくれなかったんです。いつか出来たらいいなぁ」 未来を夢見ることが出来るようになったんだね。 「やっぱり好きな人がいるって素晴らしいね」 ピロピロ ピロピロ ピロピロ 「ん? 鈴? はい、どうしたの? ………え? 分かった。すぐに行くね」 「拓海さん?」 心配そうな敦くんの頭を撫でて微笑むが、すぐに苦々しいものになってしまう。 「静くんが急に熱を出して、それがかなりの高熱らしくて。準備して行こう」 部屋に戻って明さんに同じ話をして、みんなを連れて病院に向かった。

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