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第315話.高熱の理由
「静、タオル変えるから冷たいよ」
寝てしまって起きた時には異常はなかった。
握っていた手もこんなに熱くなくて、辛そうに呼吸をする様子も全くなかった。
さっき看護師さんが熱を計ったら39℃を越えていた。
あんなに体調は安定していたのに、どうして?
昨日の夜遅くまで起きてたのがいけなかった?
急に知らない人に囲まれて、それなのに俺達のこと思い出してくれたって勘違いして無理させたのかな?
ちょっと待て………もしも俺達のことを思い出してなかったら、愛を語ってキスまでして、この高熱は俺のせいか?!
見知らぬ人から『一生離さない、そばにいて欲しい』なんて言われたら恐怖しかないよなぁ…………
どうしてもっと静の気持ちになって行動できなかったのだろう。1番守りたい子を傷つけるなんて最低だ。
自己嫌悪に苛まれていたら、病室の扉が開いた。
入って来たのは吾妻さんだった。
「え? 吾妻さん?!」
「久しぶり、静さんの状態は?」
今のこの状況を知らないようで、すごく穏やかだ。
「お久しぶりです。昨日はとても調子が良さそうだったのですが、今は39℃以上の熱があって」
「先生は何て?」
「喉の状態も変わりないし、ウイルスや菌も関係なさそうだって言ってました。疲れが出たのかもって。俺のせいです」
項垂れると吾妻さんに背中をポンポンと叩かれた。
「ちょっと変なこと聞きますね。鈴成さん、静さんにキスしました?」
こんな時に何を聞くんだ? と思うが、吾妻さんは真剣な顔をしている。
「えぇ、昨日の夜に。でもどうして?」
「晴臣が来てから説明します。あいつにこの状況を見てもらいたい」
「晴臣さん達ももうすぐ来る頃だと思います」
そう言ったタイミングで扉がノックされた。
「はい。どうぞ」
扉が恐る恐る開かれるのを見ると兄貴達では無さそうだ。
「あのー、あ、地迫先生。良かった。ここで合ってたんですね」
「芹沼くん、君も来てくれたんだね」
「ジュンと一緒に来られなくて、遅くなりました。本島は? 昨日JOINで落ち着いてるって送られてきましたけど」
「今朝から高熱が出ててね。ちょっと苦しそうだけど、顔を見て手を握ってやって?」
芹沼くんが静の手を握って顔を覗き込んだところで、また扉が開いた。
「「静!!」」
佐々木くんと河上くんの声が混ざる。
「あれぇ? ヒロくんだ」
「誠」
芹沼くんは顔だけを河上くんに向けた。
「2人とも、病院の廊下を走っちゃダメでしょ!」
兄貴が母親のようなことを言いながら入って来た。その後に明さん、晴臣さん、長谷くんと続く。
「一樹、ようやく来られたな」
「晴臣、俺のことより静さんを診て欲しい。俺には一年後のあの時の状態にそっくりに見えるんだ」
「え? でも………」
「実は誰にも言ってないことがあるんだ」
晴臣さんと吾妻さんの会話はチンプンカンプンで全く分からない。
「一樹」
「明さん、秀明様がようやく話を始めたそうです。それで俺の事もきちんと話して下さって、釈放されました」
「あぁ、俺も話は担当の刑事さんから聞いてるよ。少し痩せたな。申し訳なかった」
耳に入ってくる話も気になるが、晴臣さんが静の状態を診る方が気になる。
「鈴成さん、先生は何て?」
吾妻さんと全く同じことを聞かれた。
「喉の状態も変わりないし、ウイルスや菌も関係なさそうだって言ってました。疲れが出たのかもって」
同じように答える。
「なるほど、一樹の言いたいことがよく分かったよ」
晴臣さんはみんなを見回して微笑んだ。
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