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第318話.手を握る

明さんと拓海さんと敦と長谷くんが旅館に戻ると言っていなくなった。 鈴成さんはずっと手を握ってくれている。 鈴成さんは優しくて温かい。 それは嬉しいけど苦しい。 「静、もう寝ちゃったよな?………起きてるのか?! 疲れてるだろうから、眠かったら寝ていいよ。俺は独り言を言うから」 起きてるって知らせるために手を握り返す。 眠れるわけがない。誰もいなくなってから話すってことはみんながいる時には話せないことなんだろう。 「ごめんな。助けに行けなくて。本当は探したかったし、何処にいるか知ってからは助けたかった。自分がどんな目に遭っても構わないから助けたいって思ったけど、静は俺達をそういう目に遭わせたくなくて行っただろ? それを無下にはできなかった。もちろん、大野家が怖かったっていうのもある。弱くてごめん」 なんで鈴成さんが謝るんだろう? 僕が勝手に何も言わずに秀明さんのところに行ったんだから、謝るのは僕の方なのに………。 「静がどんな目に遭っているのかは晴臣さんや吾妻さんから聞いていた。苦しかったよな? その事について静自身がどう思っているのかは分からないけど、俺はその事で静が変わったとは思ってないよ」 変わってない? そんな訳ない。そう伝えたくても出来なくて、どうしていいか分からない。ただ、何度も手を握った。 「佐々木くんがね、きっと俺に抱かれた綺麗な自分はいなくなってしまったと思ってるって言ってた。そんな事ないって言っても否定されるだけかな?」 敦は本当に僕の考えてることが分かってる。 鈴成さんに抱かれた時だって綺麗だったかは分からない。でも、確実に今よりは綺麗だった。 頭を撫でられた。 その手からも優しさが伝わってくる。 「静が自分をどう思っていてもいいよ。俺はそんな静ごと愛するから」 愛?! こんな僕を? 「こんなに愛しいって思える人に出会えて嬉しいんだ。だから一生離したくない。俺のそばにいて欲しい。声が出なくて目も見えなくて耳もほとんど聞こえない。そんなことは些細なことだから」 一生、そばに? いてもいいの? 3重苦が些細なこと?! 「静がここにいる。それが全てなんだ。愛してる」 僕も鈴成さんのこと大好きです 唇に触れたのは鈴成さんの指? いや、もっと柔らかかった。 もしかしてキスしたのかな? あれ? 急に眠気が………? 覚えのある感覚。 サファイアを使用された時と同じ?! どうして? また忘れてしまうの? 嫌だよ 鈴成さんが手を離そうとするのが何故だか分かった。 今、この手を離してはいけない。頭の中で警鐘が鳴る。 絶対に離したくなくて、ありったけの力を込めて手を握った。 「静? 分かった。一緒にいよう」 ぽんぽんと優しく叩かれて安堵し、眠りの世界に引き込まれた。 『鈴成さん、凄く嬉しかった。あの言葉信じていいんだよね?』 夢の世界だって分かる。 だって鈴成さんの顔が見えるし、声も出ている。 それも嬉しくて、自然と笑顔になる。 『もちろん。何度だって言うよ』 『嬉しい』 夢なら素直になれるのにな……。

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