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第320話.胸の痛み
何あれ。
どうして長谷くんとヒロくんが抱き合ってるの?
長谷くんは敦と付き合ってるのに………
「ど……して………?」
ズキン
ヒロくんと長谷くんが笑い合ってる。
あんな楽しそうなヒロくんは久しぶりに見たと思う。
出会った頃はいつもああいう顔をして笑ってた。
でも最近は苦しそうな顔ばかりしている。
『好きだ』
何度もヒロくんに言われた言葉。
好きなんて僕には分からない。
友達の好きと、特別の好きの違いもよく分からない。
ズキンズキン
2人がこちらに向かって歩いてくる。
僕は見つからないようにすぐそばにあったトイレに駆け込む。
あれ? 何で隠れたんだろう
自分の行動が分からなくなる。
2人の会話が聞こえなくなったからトイレから出て、静の病室とは反対方向に歩く。
「誠くん?」
振り返ったらハンカチで手を拭く拓海さんがいた。
「拓海、さん」
拓海さんの姿を見たら急に泣きたくなってしまった。
「どうしたの? なにかあった?」
優しい声と笑顔に涙がこぼれる。
「僕とお話しようか」
「でも、しずかっ」
「静くんのところには鈴もいるし、敦くんもいるから大丈夫。敦くんに連絡するね?」
拓海さんはあの2人の名前を出さない。何か知ってるのかな?
頷くと拓海さんはスマホを取り出した。
拓海さんの電話が終わって連れて行かれたのはベッドではなくて机と椅子が置かれた部屋だった。
「鍵を閉めるね。これで誰も入って来られないから」
ヒロくんは探しに、来ないか…………
ズキンズキンズキン
「ほら、座ろう?」
「うん」
さっきから胸の辺りがズキズキする。
何なんだろう?
「これ飲んで。少し落ち着こう」
オレンジジュース、静も好きだったよね。もちろん僕も好き。
喉が渇いてたみたい。
ゴクゴク飲んだらよく見えていなかった拓海さんの穏やかな顔がハッキリと見えた。
「拓海さん」
「ん?」
「さっきね、ヒロくんと長谷くんがギュッて抱き合ってるのを見たの。ヒロくんのあんな笑顔久しぶりに見た」
ズキン
思い出すとまた胸の辺りが痛くなる。
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