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第323話.緊張

拓海さんが出て行った。 そわそわして落ち着かない。 立ったり座ったりするけど、どっちも落ち着かない。 今からここにヒロくんが来るんだよね……… なんだか逃げたくなってきた。 だって、そんなのもう遅いって言われたら僕はどうしたらいい? ヒロくんの『好きだ』は単なる友達としてだったら? 胸がキューって痛くなる。 これが僕が恋をしてるって証拠なのかな………? ついさっきまで知らなかった感情に名前が付いて僕をわちゃわちゃさせる。 トイレに行きたかったって言えば少し離れても平気かな………? 部屋を出ようと恐る恐る扉を開けたら目の前に人がいた。 「何? 出迎えてくれたの?」 上からヒロくんの声が降ってきて思わず見上げてしまった。 嬉しそうに微笑んだ顔にドキドキして目が離せなくなる。 やっぱりヒロくんはカッコいいなぁ 結局部屋を出ることはできなくてヒロくんと一緒に戻る。 「拓海先生から、誠から話があるって聞いたけど……?」 言わなきゃって思えば思うほど、喉の奥に言葉が引っかかって出てこない。 「あっ、あのね、あの、、、」 「いいよ、ゆっくりで。誠がちゃんと話してくれるまで待つから」 「うん、ありがと」 自分で思うよりも声が出ない。 何度も深呼吸をしようとするけど、上手く息が吸えない。 「ただ待っててもなぁ。俺も誠に言いたいことがあるんだ。俺が先でもいい?」 「うん」 頷いてヒロくんの顔を見る。 「何度も言ったけど、もっとちゃんと伝えたいって思ったんだ」 何を言われるの? ちょっと怖い 「俺は誠のことが好きだよ。友達としてじゃなくて、恋人になりたいって思ってる」 「ほんと?」 「うん。出会った瞬間に恋に落ちてたから、もう1年くらい片想いだな。無理なら無理って言って。そしたらなるべく会わないようにするし、もうこんなことも言わないから」 それってヒロくんとはもう一緒にいられないってこと? 「………やだ………やだよっ!」 「それ、無理って言われるより辛いわ」 え? 勘違いしてる? 「ごめんな、話ってそういうことか………」 「違う、、違うから」 「違う? 何が違うんだよ!!!」 急に大きい声で怒鳴られて、体がビクッとする。 驚いて涙が出てきた。 ヒロくんが怒鳴るなんて初めてだ。 怖いというより悲しくて涙が止まらない。 まだ僕は何も伝えられてない。 「ヒ、ヒロくん、は………ぼくの……せかいの……ちゅう、しん、なの」 出ていこうとするヒロくんのシャツを握りしめて、精一杯言葉にする。 「は? 何それ」 今までのヒロくんはどこに行っちゃったのかな? 僕の言葉は届かなくて、凍り付きそうな冷たい声にどうしていいか分からなくなる。 それでもシャツを握る手は離さなかった。

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