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第326話.自分の気持ち
「晴臣は本当のところ森のこと、どう思ってる?」
空港に向かう車を運転しながら明さんが口を開いた。
「え?」
「あいつの場合束縛は激しいし嫉妬も凄いから、嫌ならハッキリと嫌だと言わないと駄目だぞ?」
「それは知ってます。でも、どうしようもなく惹かれてるのも事実で………。静さんのことと大野家のことが落ち着くまで返事を待ってもらってるんです」
自分で言いながら、今日は久々に会えると喜んでいることに気が付く。
「あいつに待つことなんて出来るのか?」
信じられないと明さんは驚いている。
「森さんから待つって言ったんですよ? 静さんが目を覚まして東京に戻って、明さんが記者会見をされたら本格的に自分の気持ちがどこにあるのか、向き合おうと思ってるんです」
森さんのことを考えるだけでこんなに胸が震えて、本当はもう答えはとっくに出ていると思う。
でも、この年になるまで本気の恋愛をしてこなかったから自分に向けられる好意を素直に受け取れない。
「そうか。森の奴もかなり本気みたいだからな。答えが出たらちゃんと言ってやって欲しい」
「分かってます」
それからは昔話を聞かせてくれた。
森さんと諒平さんと出会って、3人で色々な事をしてきたこと。
それぞれが起こしたことをみんなで解決させたこと。
小学生から高校生までの話なのに、恋愛方面が多いのは3人が昔からモテていたってことだよね。
少し複雑だけど、3人の容姿を考えればすぐに納得も出来る。
話を聞いていたら空港まではあっという間だった。
「森の乗った飛行機の時間は?」
「えっと、まだ到着までに1時間くらいありますよ」
「喫茶店でも行くか」
「そうですね」
明さんは相手が拓海さんじゃなくても、さり気なくエスコートする。
もう染み付いている行動なんだと思う。
そんな中俺も周りの気配に気を配る。
俺もボディーガードとしての行動が染み付いている。
特に空港は色々な人がいるから神経がすり減る。
「晴臣、ここには俺を襲う奴もいない。もっと肩の力を抜いたほうがいい」
苦笑混じりに言われて恥ずかしくなる。
「それでも、こうして気を張っている方が今は落ち着くので」
入った喫茶店は空港内にあるにしてはひっそりとしていた。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
「はい。ありがとうございます」
テーブル席に向かい合って座ると、若めの店員さんがおしぼりと水を持って来た。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
「俺はコーヒーを」
「俺も同じもので」
「コーヒーの種類が多いんです。好みを言っていただければそれでお淹れすることも出来ますが」
そう言われてメニュー表を開く。
15種類はあるコーヒーの銘柄。
雨音が言ってたのはどれだっけ?
「えっと、ハワイの………」
「コナコーヒーはありますが、カウコーヒーは置いてないんです」
「では、コナコーヒーで」
「俺はブルーマウンテンにしようかな」
「かしこまりました」
きちんと淹れられたコーヒーは雨音の程ではないが、美味しかった。
到着の15分前になり、明さんと俺は到着ロビーに向かった。
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