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第328話.爆弾発言
車を降りて静さんの病室に向かう。
明さんと森さんの少し後ろを歩く。
明さんに拓海さんという心に決めた人がいると知らなかったら、2人が隣に並んでいる姿があまりにお似合いで、誤解していたかもしれない。
単なる自分の妄想に胸が痛くなり、馬鹿だなと自嘲する。
「ここだ」
明さんが扉を開けて病室に入る。
続けて森さんが、最後に俺が入る。
「有馬さん! お久しぶりです」
「いつ見ても美人さんだなぁ」
「森さん、わざわざ来て頂いてありがとうございます」
拓海さんが深々と頭を下げる。
「敦くんも誠くんも久し振りだね。拓海、俺が来たくて来たんだから気にするな。静は……まだ苦しそうだな」
森さんはベッドに近づいて静さんの顔を覗く。
「森さん」
「鈴成くんも久し振りだね。今回は薬も持ってきたから、後で主治医とも話してみるよ。静はあまり変わってないな。昔からちっこいもんな」
静さんの頭を撫でて額に手を置く。
「微熱ね。明、拓海、鈴成くん、晴臣、吾妻くんも、少しいいかな?」
子供たちだけを残して病室を出る。
「森さん?」
沈黙に耐えられなくて、俺が森さんに声をかけた。
「前にも言ったと思うが、サファイアは生殖器に集まって蓄積されてしまう。今どの位の量が静に残っているのかを調べないと、薬が使えたとしても投与量が分からない。調べている所は友達には見られたくないと思う。だから今夜俺がここに残って調べようと思う」
「森さん、静くんへの配慮ありがとうございます」
拓海さんはまた頭を下げる
「いや? それで看護師である晴臣か、医師である拓海のどちらかに一緒に残ってもらいたいんだが………」
「それなら晴臣さんにお願いしようかな。僕は昨日ついていたので」
拓海さんの発言で、俺と森さんの2人でここに残ることになった。
静さんのために残るんだと分かっているが、1晩2人でいるなんて耐えられるだろうか?
「あの、お邪魔かもしれませんが、俺も一緒に残ってもいいですか?」
「鈴成さん、もちろんです!」
「もしも熱が下がらなかったら東京に一緒に帰れないから、少しでも長くそばにいたくて」
鈴成さんの気持ちが伝わってくる。
「じゃあ鈴成くんにも調べるの手伝ってもらおうかな」
「はい、分かりました」
「有馬さんは着いたばかりですし、しばらくは俺がここに残るので、旅館で食事をしたりお風呂に入ったりしたらどうでしょうか?」
一樹の提案に森さんは頷いた。
一旦病室に戻ると、子供達と夜残る3人は明さんと一緒に旅館に戻ることになった。
「お風呂気持ちいいよね! あ、ヒロくんと一緒に入りたいな」
「え?!」
「………嫌なの?…………」
誠くんは隣に座る芹沼くんを見上げる。
「嫌……ではないけど…………」
「なら、一緒に入ろうねー。敦も長谷くんも、鈴先生も明さんも晴臣さんも有馬さんも! 全員で入ろー」
え? 森さんも一緒に?!
無邪気な誠くんの爆弾発言に俺も瀕死の重症を負った。
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