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第330話.湯の花
「大変そうだね」
「そ………そうですね」
ピッタリと隣から離れてくれない森さんに、どうしたらいいのか分からない。
とりあえず上半身は裸になる。
「晴臣がまた鍛えるって言ってたから、俺も少しだけ鍛えることにしたんだ」
「そうなんですか?」
森さんを見ると腹筋は綺麗に割れていて、スラッとしているのに結構ガッチリしてる。
「でも晴臣にはかなわないな。脱いだら凄いっていうのは晴臣のためにある言葉だね」
体脂肪は極力落とすようにしている。
「いえいえ、現役でボディーガードをしていた頃に比べると酷いものです」
「俺はもう少しぷにぷにしててもいいと思うけど、晴臣なら何でもいいや」
腰に手を回されてピキっと固まる。
「俺がいると裸になれないだろうから、先に行ってるよ」
耳元で囁かれて、何度も頷いた。
森さんはどこを隠すこともせずにスタスタと歩いて行く。
見てしまった………。
明さんほど大きくは無かったけど、俺よりは確実に大きかった。
身長は殆ど変わりない。
見た目で言えば森さんの方が痩せているのに。
俺は再度鍛え始めて、全身筋肉質になっている。
かなり抱き心地は悪いと思う。
森さんが諦めてくれればいいけど、俺なら何でもいいとかいう人が諦めたりしないか………。
色々と考えても答えは出ない。
それよりも今はお風呂を楽しもう!
誰もいなくなった脱衣所から俺も大浴場へと向かった。
体と頭を洗って内風呂を見るが誰もいない。
露天風呂にいるのか?
露天風呂に向かうと楽しそうな声が聞こえてくる。
「あ、晴臣さんだ。この前の時も思ったんですけど、晴臣さんって凄い筋肉ですよね!」
「敦さん。静さんに再会して、また鍛えようと思いまして。でもまだまだです。1日でもトレーニングをサボるとすぐに戻ってしまうので」
「それ、分かります! 俺も自主練しないとすぐに体がなまるので。俺の場合はスポーツですけど」
長谷さんの体も若いからか筋肉質だがしなやかさもあって、羨ましい。
「長谷さんも芹沼さんもスポーツをされる方々はしなやかでいいですね」
「ヒロくんのお腹も割れててかたいもんね〜」
誠さんは熱いのか急に立ち上がるとふちの岩に座る。
隣にいる芹沼さんはその姿を仰ぎ見て顔を真っ赤にする。
「ヒロくんも熱いなら岩に座ったら? 冷たくて気持ちいいよ」
あの様子では、それは無理そうだ。
おそらく芹沼さんの葛藤に気が付いていないのは誠さんだけだ。
あれ? そういえば森さんがいない?
「森、サウナはどうだった?」
「いい汗かいたよ」
「なら、俺も行ってこようかな」
「俺も一緒に行っていいです?」
「鈴成くん、もちろんだよ。根比べでもするか?」
明さんと鈴成さんがいなくなって、森さんが加わった。
「あの、有馬さんと晴臣さんって付き合ってるんですか?」
「敦くんだっけ? 俺のことは森でいいよ。晴臣とはまだ付き合ってない。告白はしたけどね。返事待ちなんだ」
世間話をするように話をする。隠そうという気持ちは無いのだろう。
「晴臣にとって静は特別なんだ。目を覚ましてからじゃないときちんと考えられないって言われてね」
「つまりは真剣に考えて答えを出したいってことですよね? 大人な恋愛ですね」
森さんは俺の隣に来て、温泉の中で手を握ってきた。
ここの温泉は湯の花が多くて白濁しているから外から中の様子はみえないが、目の前にいるこの子達に気が付かれるかもしれないと思うと動けなくなる。
少し手を引こうとしたが、より強く握られてしまった。
告白されたことも俺の子供を産んで欲しいと言われたことも思い出してしまい、手を振り払えない自分にため息がでる。
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