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第333話.眼福

病室に戻るともういないだろうと思っていた明と拓海と吾妻がまだいた。 「あれ? まだいたのか?」 「一応今日この後どうするのか聞いてから帰ろうと思ってな」 明と拓海の表情は親のものだ。 静が大切だって見ているだけでも分かる。 「今日は静の体に残っているサファイアの量を計測する。その方法は2つ。1つは精液から。それは鈴成くんに採取してもらいたい。お願いできるかな?」 「分かりました」 「もちろん2人だけにするからね」 鈴成くんは少し複雑な顔をして静を見る。 目を開けない状態の静に手を出すようで嫌なのかもしれない。 「もう1つは尿道から試薬を入れて、エコー検査をするもの。これは雅史と俺でやるよ」 「雅史………?」 晴臣の呟きに雅史と知り合いだったと言うのを忘れてたことを思い出した。 「あ、そうそう。今泉先生って知り合いだったんだ。10年以上前にボストンの研究所にいた頃の。さっきは半信半疑だったけどやっぱりそうだった」 雅史も頷く。 「本当に驚きました。まさかこんな再会をするとは」 「今泉先生って、あのボストン研修に選ばれてたんですか?! 凄いエリートなんですね………。こう言っては何ですが、どうして釧路に?」 「妻がね、北海道が大好きなんです。俺はあいつの言いなりなので。あ、たぶんそろそろ来ますよ。森のファンで知り合いだと思うって言っても信じてなかったんで」 雅史のタイプは背が低くておっぱいの大きい女の子。 「結婚してたのか」 「したよ。さくらも医師でね。産科医をしている。俺の理想が具現化した完璧な女だ!」 「ちょっと! 入りにくいじゃないのよ、雅くん!」 入って来た子は白衣の胸の辺りがパツパツになっていた。 「あ、ホントに有馬森がいる!」 フルネームで呼ばれることはあまり無いので苦笑する。 「初めまして、さくらさん。雅史とは知り合いですよ」 微笑めばポっと頬が赤く染まる。 可愛らしい子だな。 「それにしても、ここにはイケメンしかいないのねぇ」 ホゥっと息を吐くさくらさんに視線が集まる。 「すみません。さくらは腐女子ってやつで、男同士の恋愛が大好物で………」 「そう。俺はこいつと付き合ってるよ?」 明が拓海を抱き締める。 「明さん?」 「拓海、ちょっと黙ってて?」 明はみんなの前でキスをした。 「キャッ」 「こういうのが好み? それとももっと進んだ方がいい?」 拓海はキスひとつでもう明しか見えなくなっている。 晴臣も俺に対してそうなってくれればいいのに。 「大丈夫ですっ! 今のだけで眼福です!」 さくらさんは仕事がまだあるからと戻って行った。 「明はサービスし過ぎ」 「そうか? まぁ、したくなっただけだけどな」 そうだった。明はこういうヤツだった。 晴臣を見ると何か考えているようだ。 「晴臣? どうかした?」 「え? いえ、別に。エコー検査は俺も立ち合わない方がいいですか?」 「出来れば鈴成くんに付いていて欲しいかな」 「そうですね。分かりました」 晴臣は俺の言いたいことが分かったようで、心配そうに鈴成くんを見た。 「それじゃあ、俺達は旅館に戻るよ」 「先程は変なのを見せてしまってすみませんでした」 「いや? 拓海が明に溺れてるってのがよく分かったよ。そういう関係は羨ましい」 「ま、頑張れよ」 余裕の笑みを浮かべる明が憎たらしい。 「静のこと頼むな。何かあったら何時だろうと必ず連絡してくれ」 「僕からもお願いします」 「分かった」 吾妻は晴臣と同じようなやり取りをしたのだと思う。 3人が病室を出て行って、検査についての詳しい説明を始めた。

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