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第339話.困惑

中から聞こえてきた会話に自然と口元が笑みを作る。 晴臣の言う『言えない理由』が気になるが、おそらく返事は良いものになると思われる。 少し前の自分だったら2人の話の最中に乱入して、晴臣に詰め寄っていただろう。 そうしないのは自分の想いよりも、晴臣の想いを大切にしたいから。 ここまで変われたのは、きっと静を中心とした人達と出会えたからだろう。 みんな好きな人を想い、その人の為に何が出来るか考えて行動している。 しかもそれが当たり前のことで自分のことは後回しだ。 今までの俺は自分が良ければそれでよかった。 相手の気持ちよりも自分の気持ちが優先で自分の思い通りにならないと嫌だった。 どう考えても最低だ。 「森?」 雅史に後から話しかけられて、薬を持ってここに来たと思い出した。 「ん、行こうか」 扉をノックしてそのまま扉を開けた。 「静は?」 「寝ているようです。疲れたのだと思います」 鈴成くんはとても愛しそうに静を見る。 検査の為にしたいと思っていなかったかもしれないのに、無理矢理射精をさせた。 事後の気だるさもあってか、静の纏う雰囲気がエロく感じる。 「森、薬の速度教えて」 薬の量は計算してもうその量しかパックの中には入ってない。 「もう一度パッチテストした所を見てみますね」 晴臣が右腕の内側をマジマジと見る。 「うん、大丈夫ですね。点滴にまぜるんですよね? 並列で繋いで」 静の食事代わりの点滴に俺の持ってきた薬を加える。 速度を雅史に伝えると、セットは晴臣と2人ですぐに終わった。 「1度の点滴で終わるわけではないから。取り敢えずみんな仮眠をとった方がいいね。静のことは俺が見ているよ」 何故だか静と2人になりたいと思っていた。 「俺も少しだけ寝ます。静のあの姿が脳裏にこびり付いて眠れないかもしれないですけど」 「それは仕方ないことでは?」 俺といるよりも鈴成くんといる方が自然体でいられる晴臣を見て、鈴成くんに嫉妬し、晴臣をどこかに閉じ込めてしまいたいと思う。 こんな危険な考えは捨てなければと思うのに、膨れ上がるだけだ。 「森さん、何かあったらすぐに起こしてくださいね」 「俺も、お願いします」 「ああ、分かってる」 鈴成くんと晴臣と雅史が出て行き、静と2人になる。 「なあ、静。俺は晴臣にとって危険な存在かな……? 一緒にいない方が晴臣は幸せになれる気がするよ」 研究センターは世界中にある。 晴臣に見つからないように隠れるのは造作もないことだ。 返事を聞いてそれが俺にとって嬉しいものだとして、果たして晴臣を幸せに出来るのか、急に不安になった。 『自分の気持ちに嘘は付いちゃダメだよ』 「え? 静なのか?」 どこかで声がするというより、脳に直接響いている感覚がした。 結局声がしたのはその1度だけだったが、背中を押された気分だ。

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