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第342話.一緒に帰れる?
明日には東京に戻らなければならない。
静の病室に全員が集まり、未だに目を開けないその姿を心配そうに見つめる。
「熱は下がりましたが、もう少し様子を見たいところですね」
今泉先生の言うことは理解出来る。
「あの、やはり一緒に東京に戻るのは無理ですか?」
「無理です……と、言いたいところですが、地迫先生もご一緒ですし、何より静くんはあなたと一緒がいいと思っている。実はもう転院の手続きは済んでいるんです」
「ということは………?」
「ええ、一緒に東京に戻って下さい。あちらには一緒に過ごした方々もいるということで、静くんも安心出来るでしょう」
今泉先生の言葉に佐々木くんと河上くんが手を取り合って喜んでいる。
俺も遠く離れた状態が続く訳では無いと分かって嬉しい。
だが俺達と離れない方が静の為だと言われると、それだけ静は苦しんでいるということになる。
「鈴、良かったね」
「兄貴……正直に言うと凄く嬉しいけど、本当に良いのか疑問に思う」
「え? どうして?」
「俺と一緒にいたいと本当に思ってるか分からないだろ?」
ただ単に自分が自信を持てないだけのことなのだが、目を覚まさない静を見ていると不安が膨れ上がる。
「バカだね。今考えるのは静くんの気持ちじゃなくて、鈴の気持ちでいいんだよ。鈴が一緒にいたいのなら、とことん一緒にいてあげればいい。静くんの思いは目を覚ましてから聞けばいいんだから」
まるで子供に話しかけるように優しい口調で言われ、頭を撫でられる。
兄貴の言葉はいつも不思議と自分の中にスーッと入ってくる。
何があっても一緒にいると決めたことを思い出す。
静からのメッセージにも俺にだけは待っていて欲しいと書いてあった。
それは目を覚ますことも、学校に戻ってくることも、2人で未来を見つめることも全て込みだと信じたい。
いや、信じて待つ。俺にはそれしか出来ない。
静の手を握り顔を見る。
このまま体調が落ち着いた状態が続いて欲しい。
今までは直前に熱を出したり呼吸の状態が悪化したりと、転院の話が立ち消えに何度もなったと聞いている。
今回だけはそんなこと無く、一緒に東京に戻りたい。
「静! 一緒に帰れるんだって! まだ学校は無理でも、週末には絶対に会えるよ」
「オレも嬉しい。静には早く元気になってもらって学校にも復帰して貰わなきゃ。実は学年末ではオレが2位で誠が3位だったんだ。静と3人で1位から3位まで独占ってなりたいけどそれには静の力が必要だよ」
佐々木くんは俺をチラッと見てから続けた。
「それにね、鈴先生の授業が前よりもすごく分かりやすくなったんだ。それもあって凄い人気でね………心配になった?」
いたずらっ子のように佐々木くんはふふっと笑う。
「そこは静しか見えてないから心配はないけどさ」
「静が帰ってきたら、みんなでお買い物行きたいな」
相変わらず河上くんはマイペースだ。
「あ! 静の作ったご飯も食べたい! 誕生日パーティーだってしたいし………でもね、僕は静とお話出来るだけでもいいんだよ。一生ものの友達、親友なんだからね!」
暗に一生親友としてそばにいたいと言っていることを河上くんは分かっているのかな?
分かっていなくても、その気持ちは静に届いたと思う。
何も言わない面々も含めて、全員が静を心配して笑顔を見せてくれることを待っている。
なあ静、みんな静のことを待っているよ。
目を開けてくれないか?
握る手に力が入る。
反射的に握り返されたが、それは今までで1番力強いものだった。
静………?
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