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第343話.扉を開けたそこには
森さんの薬の点滴が始まってから、意識がハッキリとしてきたのが分かる。
みんなの声の聞こえ方も鮮明になってきた。
暗闇の中、目を閉じたまま立ち上がる。
すぐ横にあったはずの扉はなくなっていた。
驚きのあまり目を開けると、光を感じる。
目が見えているの?
辺りを見回すと隙間から光が差し込む箇所があるのが分かる。
そこに行こうとするけど、進んだ分だけ遠ざかるようで全然近づけない。
まだ目覚めたくないって思っているから?
だから近づけないのかな………?
みんなに目を覚まして欲しいってあれだけ言われたのに、目覚めるのが怖いなんて僕は本当に臆病者だ。
鈴成さんも拓海さんも明さんも晴臣さんも吾妻も森さんも、敦も誠も長谷くんも芹沼くんもみんなの気持ちは痛いほど伝わってくる。
だけど伝わってくればくるほど、目覚めた僕から離れて行ってしまうんじゃないかと考えてしまう。
そう考えてからふと我に返る。
このまま僕が目覚めなかったら、もう二度とみんなには会えないじゃないだろうか………?
それは嫌だなんて僕はわがままだ。
みんなに会うためには目覚めないといけない。でもそれは怖い。怖いけど…………
会いたい!!!
強く願うのはやはり会いたいという思いで、目を閉じて更に強く願った。
目を開けると目の前にはずっと近づくことができなかった隙間から光が差す扉があった。
心の距離だったのかな………?
もう迷うこと無くその扉の取っ手を掴む。
ゆっくりとその扉を開いた。
そこに広がった景色にはすぐそばに鈴成さんがいて、拓海さんも明さんも、晴臣さんも吾妻も森さんも、敦も誠も長谷くんも芹沼くんもいる。
現実なんだろうか………?
目が見えているということは………夢?
「え?! 静? 分かるか?」
鈴成さんと目が合う。
信じられない思いで、動く範囲で頷く。
「静くん!」
「静」
みんなから声をかけられて、どれだけ心配をかけていたのかを実感する。
「今泉先生を呼んでくる」
晴臣さんが出て行く。
ずっと閉じていたからだろうか。目を開けていることが辛い。
でも、見えることも聞こえることも嬉しくて目を閉じることが出来ない。
「辛いなら目を閉じてもいいよ」
鈴成さんに優しく声をかけられて泣きたくなる。
小さく首を横に振って、鈴成さんを見つめた。
目が見えるようになるまでにはもっと時間がかかると思っていた。
何か奇跡でも起きたのだろうか………?
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