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第344話.声
静が目を開けてこちらを見ている。
夢ではないかとじっと見つめると恥ずかしそうに目を逸らした。
「静? 目が見えてるのか?」
あのおまじないが本当に効果があったのかと思うと、にわかには信じ難い。
だが、静はもう一度俺を見て確かに頷いた。
「目を覚ましたって、本当ですか? ああ、本当に目を開けてる。静くん初めまして。俺は今泉といいます。苦しいとか無ければマスクを外してもいいかな?」
話しかけられて、静は今泉先生に視線を移して頷いた。
「じゃあ、外すね。苦しいとかあったらすぐに教えてね」
酸素マスクが外されて、目を開けた状態の静の顔を見たのがあまりに久々で、可愛いとしか思えなくなる。
「目は閉じるのが怖い? また目が開かなくなるかもって思っているかな?」
静は口を開きかけて閉じ、小さく頷いた。
今、声を出そうとしたのか………?
「あまり考えすぎない方がいいよ。また何かあったら呼んでね」
今泉先生は他の診察もあるのか早々に出て行った。
静が小さく手を動かす。
「静さん、もう一度いいですか?」
晴臣さんの言葉に静はさっきと同じ動きを繰り返す。
「分かりました。伝えますね。あの、静さんが少しだけ鈴成さんと2人になりたいと言ってます」
「そうだよな。気が利かなくてすまん」
明さんはそう言うと俺だけを残してみんなを外に出した。
「静?」
「……す…ず……な…り……さっ……」
1文字ずつ大切そうに言葉を紡がれ、抱きしめずにいられなくなった。
「いち…ばん……さい…しょ……に…………あ…なた……の……な…まえ……を……よび…たかっ……た…………」
だから人払いをしたのか?!
「何度も言ったが、もう絶対に離さない。俺が守るから一緒にいて欲しい」
少し体を離して目を見つめた。
静の目から涙がこぼれる。
「……あり……がと…う………でも…………」
「俺が一緒にいたいんだ。静が一緒にいてもいいと思えるまで待つよ。いくらでも待つ。無理なことはしないと誓う。だからそばにいることを許して欲しい」
涙はどんどん溢れてくる。
それを指で拭い、目尻にキスを落とす。
「……すき………です………」
涙混じりに言われた言葉は、声ごと忘れられないものになった。
「俺も大好きだよ」
東京に戻っても2人の時間を取れるようにしたい、少しでも一緒にいたいと、そう思った。
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