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第348話.誠の過去
「ちょっと芹沼、話がある」
来夢の企むような顔を見るのは久し振りで、色々と嫌な予感しかしない。
「敦?」
「ん? 分かった」
芹沼がオレの方に歩いて来る間、来夢はオレを睨みつけてそれから寮に戻って行った。
「で、話って何だ?」
「話があるのは誠だよ」
「え? 僕? 何のこと?」
「来夢からバラされる可能性があるから、あの話をしておいた方がいいだろ?」
誠にはこれで分かるはずだ。
中学の時に自分のことを他人に暴露されて、誠はいじめの対象になったことがある。
オレが守ったけど、全く傷つかなかった訳はない。
「あの話って、あの事? 来夢くんはそういうこと言いふらさないと思うけどなぁ」
そうだった。昔から外面のいい来夢のこと、誠は可愛い後輩だって思ってるんだった。
本当はそうとう真っ黒なんだけど………。
「それでも、他の人から聞かされる可能性が出来たんだ。自分から伝えた方がいいとオレは思う」
「うーん。分かった。僕の部屋でもいい? ヒロくんと長谷くんにお話があるの」
芹沼と潤一が異論を唱える訳もなく、オレ達は誠の部屋に向かった。
その道中、誠はどう話そうか考えているのか一言も言葉を発しなかった。
「せっかく寮に着いてたのにゴメンね」
「いや? それよりも話って?」
「あのね、僕は捨て子だったの」
「「え?!」」
芹沼と潤一の声が重なる。
「産まれてすぐに孤児院の前に捨てられてたんだって。名前のメモだけあったみたい。クリスマスでしょ? だからすぐに見つけてもらえたみたいなの」
誠の中では単なる昔ばなしだから、淡々と語られる。
「今の両親は里子を探してて初めて会ったのが僕で、髪の毛とか目元とかがお母さんに似てるって思ったんだって。それで、捨てられてからすぐに引き取られたんだ」
「誠と誠の母さんは本当にそっくりだもんなぁ。未だに血の繋がりが無いのが信じられないよ」
「そんなに?」
「天然具合までそっくりだよ」
背が小さくて笑うとまだ少女のようだと会った時に思ったことを思い出す。
「ヒロくんも長谷くんも驚いた?」
「驚いたけど、それでどうこうってことはないよ。それも含めて誠だから。話してくれてありがとな」
「良かったの。ヒロくんに嫌われたらどうしようかと思ったんだよ?」
全くそんな風には見えなかったが……?
「こんなことで嫌う訳ないだろ? でも誠の口から直接聞けてよかった。他の人から不確かな情報が入ってきて、それを誠に本当のことか聞くのは嫌だから」
「そうなの? それでも同じ話をしたよ?」
誠は不思議そうな顔をする。
「河上はその事で辛くなったりとかはしないのか?」
「そんなことは無いの。ずっと今の両親が本当の親だと思っていたし。中学に上がる時に教えてもらったけど、それからも僕の両親は2人だけだから」
「誠は2人のこと大好きだからな」
「うん!」
2人のことを思っているのか誠は満面の笑顔で頷く。
ああ! もうっ! 本当に誠は可愛い!
この話をしておいて良かったと思うのは数週間後のことだった。
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