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第349話.お近づきになりたい
先輩が寮に帰ってくるのを待って話がしたい。
でも、あからさまに待ってました! というのはカッコ悪い。
もうすぐ夕飯だから、食堂で話しかけるのがいいかな。
1度部屋に戻って自分の姿を、自分が持ち込んだ姿見に映す。
変な所はないよね。
ニコリと笑えば可愛いって自分でも思う。
でも、ライバルがあの誠先輩だとは思ってなかった。
中学1年の時は誠先輩は越えられない壁のようなものだった。
『ごめんね、俺は誠がいいんだ』
『誠以上に可愛いやつはいない』
そう言われることが本当に悔しくて自分磨きをした。
お肌のお手入れもしたし、髪型も色々変えた。
『来夢ってこんなに可愛かったんだな』
『俺と付き合って欲しい』
段々とみんなが僕を見てくれるようになった。
誠先輩が卒業してからの1年はとても居心地がよかった。
それなのに、また立ちはだかるのは誠先輩。
今度こそ僕を選ばせる!
少しだけ早めに食堂に行くともう列は出来ていて、最後尾に先輩がいた。
小走りになったがその後に並ぶことに成功した。
「あの、先輩」
「ん? あ、君はさっきの……えーと……有栖川くんだったよね?」
「来夢でいいです」
「来夢くんね」
名前で呼ばれるだけで胸がキュンキュンする。
「あの、先輩のお名前は……?」
「そっか、まだ自己紹介もしてなかったね。俺は2年の芹沼浩孝だよ」
ヒロタカさん……だからヒロくんか………。
「ヒロ先輩って呼んでもいいですか?」
「構わないよ。好きに呼んで」
ふわって笑うヒロ先輩の破壊力がスゴイ。
「おい、ヒロ。また可愛い後輩を虜にしてんのかよ! ファンクラブの子だけじゃ足りないってか?」
「そんなんじゃねぇよ」
「さっき噂で聞いたんだけど、付き合い始めたって? あの難攻不落の誠ちゃんと」
「春休み中に、ようやくね。1年かかったよ」
え?! 付き合い始めたばかりなんだ………。
でも絶対に諦めない。
「あのぽやぽやした誠ちゃんだけで満足出来んのか? 100人斬りの異名を持つおまえがさ」
うわぁ、ヒロ先輩って絶倫なんだ。
「だから、それは単なる噂だよ」
僕だったら我慢させたりしないのに。
告白のシチュエーション考えなきゃなぁ。
誠先輩に相談したらなんて言うかな………?
応援でもしてくれたら楽なんだけど、そういう訳にはいかないよなぁ。
ヒロ先輩はお友達との会話に夢中で、僕は1人で考え事をする。
告白する前に誠先輩と2人で話できるかな……?
問題は敦先輩だよねぇ。
あの人は僕を敵対視してるからなぁ。
1人になるところを狙うしかない!
誠先輩も敦先輩も第1寮のはず。
明日行ってみようかな。
あさっては入学式だし、学校が始まる前に誠先輩とお話をしたい。
あの人が疑心暗鬼で心を揺らせば、僕の入り込む隙間もできるよね。
夕飯を食べながら少し遠くに座っているヒロ先輩を見て、僕は微笑んだ。
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