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第351話.告白だけでは終わらせない

入学式も終わり、授業が始まって1週間が経つ。 この1週間でヒロ先輩と誠先輩が帰りにどこで待ち合わせをしているのかを調べた。 一緒に帰るのは金曜日だけらしい。 サッカー部の活動が学校が休みの土曜日にある為、その代わりに金曜日は部活動がないとクラスのサッカー部員に聞いた。 誠先輩の見ている前で告白をしようと決めているから、今週の金曜日がいいかなぁ。 それを見て別れてくれたら最高なんだけど。 どうしたらいいか考えながら過ごす時間はあっという間で、もう明日が告白をしようと決めた金曜日だ。 今日クラスのサッカー部員に聞いたら、明日は部活動はミーティングだけだと教えてくれた。 待ち合わせは昇降口を出て少し歩いた所にあるベンチ。 だから僕は昇降口を出てすぐの所で声をかけて体育館との渡り廊下辺りで告白かな。 きっと後ろからついて来るであろう誠先輩にしっかり目撃してもらおう。 昨日はあまり眠れなかった。 色々とシュミレーションし過ぎたかな。 そう思ったのに、授業中もその事で頭がいっぱいだった。 1度も指されなくて良かった。 「来夢、一緒に帰ろう」 「ごめん、今日は先生に質問があって時間がかかると思うんだ」 「そっか。来夢は勉強熱心だな。じゃあ先に帰るわ。後で寮でなー」 「うん。後でね」 一緒に帰ろうのお誘いは毎日あるから、あらかじめどう答えるか考えておいて正解だったな。 掃除も終わってクラスから全員いなくなったところで、勉強するふりをやめた。 そこから更に5分待ってから昇降口に向かう。 靴を履き替えてヒロ先輩を待つ。 もちろんあのベンチに誠先輩が座っているのは確認済みだ。 自分から告白するのは久々でドキドキする。 「今度の試合もヒロはスタメンだよな。俺も少しでいいから出場してぇなぁ」 「最近調子いいし、出られんじゃないか?」 「だといいけど」 「それに………」 「あの、ヒロ先輩!」 「ん? 来夢くん? どうした?」 「あの、お話があって」 「またかよ、色男は大変だな。じゃあまた明日な」 「変な事言うなって。また明日な。あ、自主練サボんなよ」 「へいへい。じゃあな」 「おう」 ヒロ先輩と話をしていた先輩は走って行ってしまった。 「あの、他人に聞かれたくなくて」 「そっか、どこがいいかな……?」 「渡り廊下辺りで」 「ん、分かった」 ヒロ先輩はついてきてくれた。 本当にヒロ先輩は優しくてカッコイイ。 渡り廊下で向かい合う前に少し後ろを見たら、思惑通り誠先輩はついて来ているようだった。 「で、話って?」 「あの、僕、ヒロ先輩のことが好きです」 「うん。ありがとう。でもね、俺は付き合ってる人がいて………」 「誠先輩ですよね?」 「え? あ、うん。そうだけど……知ってて?」 ヒロ先輩は驚いたように僕を見ている。 「僕、ヒロ先輩のことが好きだって誠先輩に言ったんですよ?」 「そうなの?」 「はい。告白していいか聞いたら、いいよって言われたんです」 「そっか」 少し寂しそうな顔をしたから、攻めるならここだって思った。 「誠先輩はヒロ先輩と同じ意味で好きだって思ってるんですか? 僕にはそうは見えなかったです」 「それでも俺の気持ちは変わらないから」 「だったら記念に抱きしめて欲しいです」 「え?!」 ダメだって言わせない。 「そうしてもらえれば諦められます。1度だけでいいんです。お願いします!」 「そういうことなら」 チョロイなヒロ先輩。 1歩ずつ進んでぎゅっと抱き着く。 筋肉質でだけど弾力もある。 先輩も少しだけぎゅっとしてくれた。 ヒロ先輩が油断しているのが分かったから、誠先輩からは見えないように制服のブレザーの合わせ部分を持って引っ張った。 「え? うわっ」 チュッ あー失敗したー。 反射神経良過ぎ。唇と唇の間にヒロ先輩の手が挟まってる。 でも角度的に誠先輩からは抱き合ってからキスしたように見えたはず。 「残念。キスできたかと思ったのに」 「本当に好きな子としか俺はしたくないから」 え? 言葉が凶器になって胸に突き刺さる。 あれ? ただ単に顔が好みだからだけじゃないのかなぁ。 本気で好きになんてならない筈だったのに。 「僕、諦めが悪いので覚悟して下さい」 「俺は誠以外を好きにはならないよ」 「それでも、僕の方に向かせてみせます!」 ヒロ先輩は黙ってしまった。 「今日は1人で帰ります。お話を聞いて下さってありがとうございました」 振られることは分かり切っていたことなのにこんなに傷ついてバカみたいだ。 何も考えずに来た道を戻ったが、誠先輩に会うことは無かった。 本当にキスしたと思って1人で帰ったのかな………? そう考えたら胸がスカッとするかと思ったのに、なんだか胸が痛い。 何だよこれ。こんなの僕じゃないよ。 誠先輩への罪悪感だったのかもしれない。そう思ったけど、もう引き下がることも出来ない。 誠先輩をもっともっと傷つけることになっても、ヒロ先輩の笑顔を独り占めしたいから。 恋なんてゲームだって思ってたのは本気じゃなかったからだって今なら分かる。 ヒロ先輩が落ちないなら、誠先輩を蹴落とすしかない。 いつしか胸の痛みは無くなって、うっすらと笑みを浮かべていることに気が付いた。 本気の恋に落ちた僕は、悪魔に魂を捧げてしまったのかもしれない。

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