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第352話.胸の痛み

来夢くんからヒロくんに告白するって言われてから1週間になる。 まだ告白したって聞かないから、してないんだと思う。 来夢くんは新入生の中で1番可愛いと評判だ。 そんな子が告白したとなれば、たぶん僕の耳にも入って来ると思う。 もしかしたら告白するのをやめたのかもと思い始めた、ヒロくんと一緒に帰る金曜日の放課後、来夢くんがヒロくんに話しかけるのを見た。 2人でどこかに行くみたいで、いてもたってもいられず、後をつけた。 本当はこんなことしちゃいけないって思うのに、ヒロくんのこと信じてるのに、胸がザワザワする。 僕のいる所からは2人の声は聞こえない。 来夢くんが何かを言ってヒロくんがそれに対して何か言う。 それが何度か続いたら、来夢くんがヒロくんに抱き着いた。 僕はすぐに引き剥がすって思ってたのに……ヒロくんは来夢くんをぎゅってしたの。 いつも僕にしてくれてるみたいに……… 胸がギューって痛くなる。 嫌だって感情でいっぱいになる。 しかもそこで終わりじゃなくて………… 現実なんだよね? 夢であって欲しいって願うけど、ほっぺたを抓ったら痛くて、見たくないって思うのに目が離せない。 ヒロくんと来夢くんはキスをしてた。 おでことかほっぺたとかじゃなくて、唇同士で。 嫌だって思いと、嘘だって思いたいのと、訳の分からないどす黒い何かに覆われて、気が付いたらそこから走って寮の自分の部屋に戻った。 ベッドにうつ伏せになって顔を枕に埋める。 「……うわあーん……ヒロくんのっ……ウソツキっ………」 叫ぶ言葉は枕に吸収される。 「…でも…………大好き……ふぇっ…………」 泣いても泣いても涙が止まらない。 さっきから枕もとにあるスマホが鳴ってる。 チラッと見たらヒロくんの名前が表示されていた。 別れ話がしたいのかな………? そう思ったら出られなくて、また音が止む。 着信履歴を見たら、もう20回以上かかってきてる。 それからも何度かかかってきたけど、出られなかった。 インターホンが鳴って、身体がビクッと反応する。 そろそろと立ち上がってインターホンのモニターに映る人物を見ると、やっぱりヒロくんだった。 呼び鈴を押しながら話すと、声が中に聞こえる。 『誠! 中にいるの? いるならJOINでもいいから教えて欲しい……どこにいるんだよ………』 ヒロくん、心配してくれてるの? 声を出そうとしたけど、泣き過ぎてひどい声だ。 スマホを持ってJOINを開く。 『僕は部屋にいます。少し頭が痛くて。今は会えないです』 送ったらすぐに既読になる。 頭が痛いなんてウソだ。 ウソをつくなんて僕はきたないね。 本当は会って全部聞きたいのに、その勇気がない。 『大丈夫? なにか欲しいものがあれば持ってくるよ』 JOINで返事が来た。 ヒロくんはいつも通りで優しい。 でも今はその優しさが別れへの序章のようで怖い。 『ありがとう。でも風邪だと伝染すといけないから』 好きだから、何もかもが怖い。 インターホンからまたヒロくんの声がした。 『分かった。でも何か欲しいもの出来たら言って。日曜のデートも無理はしないでいいよ。じゃあ、俺も戻るね。お休み』 インターホンに映るヒロくんは本当に心配そうで、僕は何をしてるんだろうって思う。 その場にペタンと座って涙は流れるがままにする。 どのくらいそうしていたか分からないが、またインターホンが鳴ってモニターを見る。 映っているのが敦でホッとする。 『誠、夕飯の時間だぞー』 敦の声にまた泣きたくなる。 声はガラガラだからJOINを送る。 『体調が悪いから今日は部屋にいます』 『おい! 大丈夫か?! 誠が飯を食わないなんて相当だろ!』 慌てた敦の声がする。 何それ。 クスッと笑ってから、まだ笑えるんだって不思議になる。 『夕飯の後、デザートだけ貰って部屋に来て。話したいことがあるの』 敦に今日のこと聞いてみたくなった。 デザートは口実だよ? 本当にお腹すいてないんだからね!

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