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第353話.信じたいのに

敦は本当にデザートだけを持って僕の部屋に戻って来た。 それまでの約1時間、涙は止まることを知らない状態で、こんなことは初めてだった。 悔しかったり嬉しかったりで、もちろん泣くことはあるけど、いつもすぐに泣き止んでいた。 こんなに泣いても泣いても涙が止まらないなんて初めてで、どうしたらいいのか分からなくなる。 インターホンが鳴って、敦の声がした。 『誠。開けて』 扉のすぐそばにいたから、手を伸ばして開けた。 「………なんとなく想像してたけど、ずっと泣いてたのか?」 「…うん………涙が……止まらないの………」 敦は持ってきたデザートをローテーブルの上に置いてから、洗面所に行った。 「ほら、タオル濡らしてきたから顔拭いて」 タオルを広げて顔に当てる。 冷たくて気持ちがいい。 「先にデザート食べるか? 今日は誠の好きなプリンだったぞ」 タオルを当てたまま首を横に振る。 「そっか」 敦は僕が話をするまで何も言わずに隣にいてくれた。 「……あのね。ヒロくんが、告白されるとこを見たの」 「うん、それで?」 これ、言ったら敦はヒロくんを怒るかな……? でも、このままぐずぐずしていたくない。 「その子のこと抱きしめて、キスしてたの」 「………それって、唇が触れてるところも見たか?」 「え?! 見てないけど………でも」 敦は急に立ち上がった。 「敦……?」 「潤一を呼んで来てもいいか? 実践のが分かりやすい」 何を言っているのかよく分からないけど、頷いた。 「すぐ戻る」 敦が出て行く。 涙は止まった。 でも心が痛くて苦しくて自分のことが嫌になる。 敦が長谷くんを連れて戻ってきたのは10分位してからだったと思う。 時計を見ていた訳じゃないし、もしかしたらもっと早かったかもしれない。 インターホンが鳴ってさっきと同じように扉を開ける。 「河上、目が真っ赤だな」 「ごめんね。変な顔見せちゃって」 「…いや………?」 なんか長谷くん慌ててる? 敦もなんか怒ってるみたい………。 今の僕はみんなを変にしちゃうのかな………? 「誠、芹沼に告白したの来夢だろ?」 「え? 何で?」 「他の子の告白は何度も見たりしたろ? それでもこんなことにならなかったよな?」 あれ? 本当だ。抱き締めてるのも、頭ポンポンするのも見たけど、こんなに苦しくなった事なかった。 「入学式の前日に何があった? あの日から誠の様子が変なのは気がついてた。無理に聞き出したくないから話してくれるの待ってたんだ」 「来夢くんからヒロくんが好きだって聞いたの。告白するって」 また胸がキューってする。 「来夢はわざとそれを誠に言ったんだろうな」 「わざと?」 「ああ、よく知っている人が同じ人を好きになって告白するなんて知ったら、変なことを色々と考えちゃうだろ?」 今までは知らない人だったから大丈夫だったんだ。 知ってる人だと、想像もリアルだもんね。 「さっき芹沼と電話で話したよ」 「え?」 「来夢とキスはしてないって」 「でもっ」 「再現するから。オレと潤一で。見た方が早いだろ?」 ヒロくんは嘘をついてるのかな? どんな角度で見えてたのか詳しく言って、僕も少し離れてそれを見る。 なんか思い出してまた涙が出てくる。

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