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第354話.黒い感情

昨日の夜は敦と長谷くんのお陰で、ヒロくんと来夢くんがキスをして無い可能性もあるって分かった。 分かったけど、だからといって絶対にしてないっていう証明にはなってない。 敦にはヒロくんの恋人は僕なんだから、何でも聞く権利がある。ちゃんと話せって言われちゃった。 そう言われたからもあるかもしれないけど、なんだかヒロくんに会いたくて仕方がない。 なんか違う。会いたいというより1目でいいから顔を見たい。 今日は部活動があるはずだから、見に行ってみようかな……? 遠くからそっと見ればいいよね。 あまり良く眠れなくてだるかった体も冷たい水で顔を洗って、外の朝の清々しい空気を吸えばシャキッとする。 土曜日の朝はいつも早めに行って自主練してるって言ってたよね。 きっとこんな時じゃないとこんな朝早くに学校に行くことはないと思う。 グラウンドが近づいてきたらヒロくんではない声が聞こえてきた。 「ヒロさん、誠くんと付き合い始めたって言ってたな」 「そうだな。でも誠くんなら許せる」 「俺も。ヒロさんの一目惚れだったらしいしな」 これって、ヒロくんと僕のこと? 「それなのに、急に現れて何してんだよっ!」 「……言いたいことはそれだけですか?」 ドカッという音のあとに聞こえてきたのは、苦しそうな来夢くんの声だった。 「ファンクラブだかなんだか知りませんけど、不可侵協定ですか? くだらない。どうせ告白もできない臆病者の集まりでしょ」 「何?!」 来夢くんが危ない! そう思ったら勝手に体が動いてた。 走ってファンクラブの子と来夢くんの間に体を入れた。 脇腹に激痛が走って一瞬息ができなくなる。 立っていられずその場にうずくまる。 「え?! 誠先輩?」 「…ハァハァ……来夢くん……無事?………」 「それは、こっちのセリフですよ。あんたらこれがヒロ先輩に知られたら、嫌われるの決定だな」 来夢くんを襲おうと思ってた子達を見上げると、顔面蒼白になっている。 「ヒロくんには言わない。だからもうこんなことしないって約束して……?」 僕の言葉に声もなく何度も頷くと、ファンクラブの子達は走って行ってしまった。 「誠先輩、馬鹿ですか? 僕のこと嫌いでしょ? それなら見ていれば良かったのに」 「え? 嫌いじゃないよ? それに可愛い後輩が傷つくのをただ見てるなんて出来ないよ」 「嫌いじゃないって………?」 来夢くんは信じられない、という顔をする。 「2人が一緒のところを見るのは嫌だったよ。なんか黒い感情で覆われて、自分のことを嫌いになっちゃうから」 「黒い感情って嫉妬ですよ。そういうこと感じるなら嫌いになるのは僕でしょ。………ちょっと見せてください」 嫉妬……なのかな? それってヒロくんは僕のなのにって思ってたってこと? そんなことを考えてたら、来夢くんにポロシャツを捲り上げられた。 「こんなに真っ赤になってるじゃないですか! これ、青アザになりますよ」 「大丈夫だよ。来夢くんだってどこか蹴られたりしたんじゃないの? 音だけしか聞こえなかったけど」 「大したことありません。僕はこういうの慣れてるので。虐めに遭ってたこともあるし」 何でもないって言ってるけど、僕には助けてって悲鳴をあげているように見える。 僕じゃ助けにはならないと思うけど抱き締めずにはいられなかった。 ぎゅっとすると来夢くんが少し暴れて、さっき膝蹴りを受けたところが痛む。 でも僕は離さなかった。

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