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第355話.キラキラ

誠先輩はなかなか離してくれない。 こんな風に誰かにしっかりと抱き締められるのはいつ以来だろう。 僕は昔から性格が悪い。自分でもそう思ってる。 外見だけを見て話しかけられることも多いけど、そんな人と長続きする訳もないし、僕だって好きになる訳がない。 結局のところ、親友と呼べるような友達も本気で好きだという人も今までいなかった。 ヒロ先輩は顔が好みでカッコよくて、僕の隣にいてくれたら自慢出来るって、初めはそれだけだった。 たぶん誠先輩の恋人だと知って、どうしても自分のものにしたくなった。 誠先輩は中学の時から裏表がない人で、心が綺麗で絶対に適わない人。 今だって僕のことを嫌いになるハズなのに、誠先輩は自分が嫌になると言ってる。 僕を助けようとして代わりに蹴られるなんて………今だって暴れてそこに当たったからそうとう痛いハズなのに、抱き締める腕の力は変わらない。 こんな人に僕が太刀打ち出来ないことは分かってる。 誠先輩とヒロ先輩、よく考えたら僕がこの先も一緒にいたいのって、誠先輩なんだ。 「誠先輩、昨日はごめんなさい。ヒロ先輩とはキスしてないです。それと今朝も先輩の出生の秘密をヒロ先輩に言いました。もう本人から聞いたって言われて驚きました」 「僕が捨て子だったっていうのは、別に隠すことでもないから。言いたかったら言っていいよ。それより、ヒロくんとキスしてないって本当?」 捨て子だったことよりもヒロ先輩と僕とのことの方が気になるなんて………しかも声に不安が混ざってる。 「ホントです。ヒロ先輩反射神経良過ぎで、間に手を挟まれてしまったので」 「そっか、あのね?」 誠先輩が離れて目を合わせてきた。 「はい?」 「僕もヒロくんのこと恋愛感情の好きだって気付いたのつい最近のことなの。でも、誰にも渡したくない。来夢くんは可愛いし、ヒロくんの気持ちが変わっちゃうんじゃないかって心配になるけど………」 「バカですね。ヒロ先輩には昨日も今日もハッキリと振られたんです。誠先輩以外考えられないって」 僕の言葉で誠先輩に纏っていた負のベールみたいなものが取り払われた。 いつもの明るくて眩しい、キラキラした眼をして僕を見つめてくる。 「ヒロくんがそう言ってたの?」 「そうですよ! だいたい何で僕が振られた話をしなくちゃいけないんですか!」 自分から話したことは棚に上げて喚いてしまう。 「ご、ごめんね」 「誠先輩はもっと堂々として下さい。ヒロ先輩が選んだのはあなたなんですよ?! 好きな人が自分を好きになってくれるなんて、奇跡なんですから!」 「は、はい!」 誠先輩が背筋を伸ばして返事をする姿を見て、どうしてこんなに素直な心の綺麗な人を蹴落とそうなんて思ったのか、自分の汚さに嫌気がさす。 「僕はヒロ先輩よりももっと素敵な人を見つけます。だからもう僕と関わらない方がいいですよ。嫌われ者の僕といたら誠先輩の株も落ちちゃうでしょ」 「何を言ってるの? 僕は来夢くんのこと大好きだから、これからも仲良くしたいよ?」 「敦先輩がダメだって言うと思いますけど……?」 誠先輩はキョトンとした顔で見つめてきた。 「敦は関係ないの。僕が来夢くんと仲良くしたいの。2人でお買い物とか楽しそうだし!」 想像してるのかキラキラが増してる。 僕と誠先輩の2人だけで買い物なんて、絶対に敦先輩が許さないだろうなぁ。 変なのが寄ってきそうだし。 「じゃあ、これから行きますか?」 「ヒロくんの姿を1目見てからでもいい? それと何も持ってきてないから1度寮に戻るね」 冗談のつもりで言ったのに、誠先輩はノリノリだ。 2人だけで出掛けるのはやめておいた方が良かったと痛感するのは、数時間後のことだった。

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