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第357話.ナンパは怖い

「どこから行くの?」 「まずは誠先輩が着てる服のお店からにしましょう」 「じゃあ、あっちだね」 思わず手をそっちに向けて伸ばしたら誰かにぶつかってしまった。 「あ、ごめんなさい!」 「謝らないでいいからさ、この後俺たちと遊ばない?」 「え?」 遊ぶ? この人何を言ってるんだろう??? 「お兄さん達、自分の顔鏡で見てから出直して来てよ。僕達に釣り合うとでも思ってるの?!」 「ら、来夢ちゃん?! あの、あの、ごめんなさい! 僕達恋人がいるので、無理です! ほら、行くよ!」 来夢くんの手を取って離れようとしたら腕を掴まれてしまう。 「いやいや、行かせないよ?」 引き寄せられて耳元で喋られて、気持ち悪さに震える。 でも、幸いなことに来夢くんは僕が手を握っているだけだから、その手を離して体を押す。 「え? 先輩?!」 「来夢くんは逃げて!」 「おい!」 来夢くんは運動神経がいいから追いかけられても捕まえられずにいる。 でも人数で負けてるし、どうしようって思ってたら、誰かが近づいてきた。 「静さんの大切なお友達に何をしているんです? 腕、折りますよ」 聞いたこともないような低い声を出したその人は、僕の腕を掴んだその手を引き剥がすと、気がついた時には男の人に馬乗りになって腕を持った状態だった。 「あっ! 来夢くんは?」 「大丈夫ですよ。あちらには明さんが行きましたから。で、どうします? 少し動かせば簡単に折れますけど」 「何もされてないから大丈夫なの。離してあげて……? 本当は晴臣さんも傷つけたくないでしょ? 心が苦しいって言ってる」 腕を離して立ち上がった晴臣さんに男の人が殴りかかる。 「やられっぱなしでいられるかよ!」 それをかわして晴臣さんは男の人に回し蹴りをした……んだと思う。 速すぎてよく見えなかったけど、男の人は地面に倒れてる。 「何も出来ないように、やっぱり腕を折っておきましょうかねぇ」 「ヒィっ」 「晴臣さん」 僕が首を横に振ると晴臣さんは男の人から離れて立つ。 「お兄さん、お友達を連れて行ってください。さようなら」 男の人は首の辺りをさすりながら立ち上がって、来夢くんを追いかけた人達のところに行く。 それと入れ違いに来夢くんを抱き上げた明さんか悠々と歩いてきた。 来夢くんは明さんの顔をポーっと見つめている。 「来夢くん! 何もされなかった? 無事?」 「誠……先輩………!」 我に返ったのか大粒の涙を目に溜めて、明さんに下ろされると僕に抱き着いてきた。 「怖かったね」 よしよしと頭を撫でると、更にぎゅっと抱き着いてくる。 「先輩、、も、無事?」 「うん。2人が助けてくれたからね」 「いえ、もう少し近くにいればもっと早く助けられました。嫌な思いをしなくて済みましたよ」 僕は晴臣さんと明さんを見上げる。 「敦に頼まれたの?」 「すごく心配してたよ」 敦という言葉に来夢くんの体がビクッとする。 「そっか。怖いことあったし、もう学校に戻る?」 「やです。お買い物行きましょう?」 もう泣き止んで、少し離れると小首を傾げる来夢くんがとても可愛くて頷くことしか出来なかった。 「俺達も少し離れてついてるから安心していいよ」 「「うん」」 明さんの言葉に2人で笑い合って、手を繋ぐとさっき行こうと思ったお店に向かう。

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