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第363話.一緒にいたいです

来夢くんが謝りたいと言ったからヒロくんとのデート前に僕の部屋に来てもらうことにした。 来夢くんは敦にもそれを見届けて欲しいと言った。 敦が自分を良く思っていないことを分かっていながらそんなことが言えるのは、来夢くんが強いからなんだよね。 インターホンが鳴って『誠先輩、来夢です』と声がしたのでドアを開けた。 「来夢くん、いらっしゃい。入って」 「はい………わっ、ウサギがたくさん! 可愛いですね。誠先輩のですか?」 「これはルームメイトのなんだ。今は入院していていないけどね。来週はお見舞いに行く予定なの。来夢くんにも会ってもらいたいな」 静はまた目を覚まさないって聞いてる。 本当なら今日も静に会いに行きたいけど、今日は色々と検査があるから会えないって言われてるから仕方がない。 もう一度インターホンが鳴った。 『誠、開けて』 「敦、長谷くんも。あ、ヒロくんもだ。入って。来夢くんはもう来てるから」 ぞろぞろと3人が入って来て僕のベッドに座っていた来夢くんは慌てて立ち上がった。 「なんか、話があるんだって?!」 敦の当たりが強くて来夢くんは開こうとした口を閉じてしまった。 「敦! まずはちゃんと来夢くんの話を聞いて?」 微笑むと来夢くんはコクンと頷いた。 「あの、初めにヒロ先輩、誠先輩、ごめんなさい! 僕、2人が破局すればいいって思ってました」 敦はなにか言おうとして止めた。 「ヒロ先輩のことカッコイイって思ったのは本当だけど、好きかどうかは分からなかったんです。でも、好きだって言って好きになってもらえたらって思ってました」 誰も口を挟まないことを確認すると、来夢くんは続けた。 「僕には許嫁がいます。絶対に好きにならないって分かっているような人で、でもその人との結婚は決定事項だから………どうしても恋がしてみたかったんです」 「その相手に芹沼を選んだってことか?」 「少し考えれば、誠先輩に勝てる訳がないって分かったはずなのに……僕がバカだから……」 涙を浮かべて、それでも続ける。 「気が付くのが遅かったですが、僕がこの先もずっと一緒にいたいって思うのは、ヒロ先輩じゃなくて……誠先輩なんです。恋とかではないですが、仲良くしたくて」 え?! 僕??? うわあああ! 嬉しい!!! 「皆さんに許して頂けるのなら、皆さんが卒業するまで一緒にいさせてください!」 「芹沼は? どう思う?」 「俺はもうあんなことしないって約束してくれるなら」 ヒロくんは来夢くんを見て微笑む。 「誠は?」 「僕は一緒にいたいよ! 来夢くんと同じ気持ちなの」 「そうか。2人がそう言うのならオレも反対はしない。ただ、また誠が目が溶けそうになるくらい泣くようなことをした時は、許さないから」 「あ、ありがとう、ございます!」 嬉しそうにしながら涙を流す来夢くんを見て、人は嬉しい時にも泣くんだって思い出した。 「で、許嫁ってそんなに嫌な奴なのか?」 「凄く年上で、自分の思う通りにならないと、叩かれることもあるから………」 「年上ってどれ位?」 「えっとね、この前明さんが45歳だから来夢くんの30上だって言ってた、よね?」 「はい、そうです」 僕もあの時驚いたけど、やっぱり3人も驚いてる。 「え? あのさ、そいつヤバくないか? 30も下の子と結婚とか! それに叩くとか、有り得ないだろ」 「あの、その人は若い人にしか興味が無いみたいで……僕のことはかなり気に入ってくれてます」 「来夢は嫌なんだろ?」 「………嫌、です。お父様にもお母様にも言ったけど、我儘は許さないって言われて………」 この話は来夢くんにとって苦しいものでしかない。 何度も何度も自分の思い通りにならないと突きつけられるのは、心が悲鳴を上げる。 「僕には家を捨てることは出来ないから。僕が靖さんの元に行くことで全てが丸く収まるのなら、それでいいって思ってるんです」 「来夢………」 来夢くんの何もかもを諦めた表情に胸が痛くなる。 「だから、家から離れていられる高校生の間だけでも、自由に恋がしたくて……でも、恋なんてしたくてするものでもないですし、出来ないならそれで仕方ないかなって」 努めて明るい声を出す来夢くんが余計に可哀想になる。 「まあ、校内だけが出会いの場な訳じゃないよ。買い物には時間があればオレ達も一緒に行くし、出会えたらいいな」 敦に頭をぽんぽんとされて来夢くんは「はいっ」と笑顔で頷いた。 結局その日は5人で買い物に出かけて本当に楽しかった。 でも次はヒロくんと2人きりのデートがいいな!

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