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第364話.緊張の挨拶
✳︎時間経過に注意
✳︎入学式当日です
「はぁ……ん……」
飲み込む唾液すら出てこない。
緊張で喉がカラカラだよー
本当なら静くんに会って癒されたいところだが、入院中で無理だ。
東京の病院に移ったことは拓海さんが教えてくれたけど、新米教師には準備がたくさんあって会いに行く暇がない。
目を閉じれば出かける直前の上総のことを思い出す。
『大丈夫。緊張したら深呼吸な』
笑顔の上総に頭を撫でられた。
精神安定剤のような効果があって、バクバクいっていた心臓も少しは落ち着く。
あ、上総って言うのは秋本上総 で、俺の恋人。
俺の就職が決まってから本格的に同棲を始めた。
聖凛高等学校にも上総の職場にも30分で行ける距離にある新居。
引っ越して約半年、2人の生活にも慣れてきた。
週末に会った後に後ろ髪を引かれる思いで自分の部屋に帰る、それが無くなったことも嬉しいし、時間を気にすることなくエッチなことが出来るのも嬉しい………。
思考が変な方向に行ってしまい、恥ずかしくて顔が熱くなる。
「諸角先生、緊張してるか?」
「す………地迫先生…………」
鈴先生と言いそうになり、慌てて言い直す。
「ははっ、ガチガチだな。深呼吸して、水でも飲んどくといいよ」
渡されたペットボトルの水を半分近く飲むと、狭まっていた視界が開けた。
「挨拶なんて、よろしくお願いしますと笑顔でなんとかなるから、あまり考えすぎるなよ」
「………はい…………」
相変わらず、鈴先生は優しい。
笑顔に癒された。
講堂には新入生が並び、先生方も並ぶ。
新米教師は俺だけらしく、俺は舞台袖に待機している。
最後に呼ばれてひと言挨拶をすることになっていた。
入学式は滞りなく進んでいく。
ペットボトルの水はもう空になった。
また喉はカラカラだ。
今までこんなに緊張した事ないのに!!!
深呼吸をしても緊張は解けない。
「それでは、新任教師である諸角先生です」
ひぃっ、呼ばれてしまった!
壇上に上がり、マイクの前に立って生徒達を見回す。
そこで、敦くんと誠くんと目が合った。
ニコッと笑う2人の笑顔に肩の力がふっと取れた。
「諸角春です。何でも相談に乗れるような、そんな教師になりたいと思っています。よろしくお願いします」
短い言葉に全ての思いを込めた。
温かい拍手に自然と笑顔になった。
教師という新しい人生の始まり。
色々とあるだろうけど、自分が選んだ道だ。
生徒と同じ目線で向かい合える、そんな教師になろう!
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