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第365話.素直になれない
入学式はなんとかなった………と思う。
たぶん……おそらく…………きっと………………
自信なんてない。
どんなに頑張っても、今までだって空回りすることの方が多かった。
だけどこうしてこの学校に教師として戻ってこられたのは嬉しくてたまらない。
壇上から降りて鈴先生の所に向かう。
実習生の時と同じように、鈴先生にくっついて色々と勉強することになった。
鈴先生のクラスの副担任に任命されていて、僕の前に副担任をしていた人は新一年生の担任になったらしい。
俺もいつかそうなる時が来るのかな……?
「諸角先生? 取り敢えず職員室に行くよ」
「あ……はいっ!」
職員室に寄って、そのまま2年A組に向かう。
教室に入る前に、敦くんと誠くんに会った。
「あ、ハル先生! おかえりなさい。静も一緒だったら良かったのになぁ………あ、今度お見舞いに一緒に行きましょうね」
「誠、はしゃぎ過ぎ。ハル先生、おかえりなさい」
「うん、ただいま。ありがとう、嬉しいよ」
2人の笑顔にまた緊張がやわらぐ。
「静くんのお見舞いも行きたいな。本当なら北海道も行きたかったけど、こっちの準備があったから無理で……ね」
「諸角先生?」
「はい! 2人とも席について」
「「はーい」」
生徒達は俺が帰ってきたことを喜んでくれた。
拒絶されることばかりを考えていたから、素直に嬉しいと思う。
みんなとのコミュニケーションの中で教師として成長したい。
教師としての1日目はあっという間に終わり、気が付いたら家のソファに座ってボーッとしていた。
「え? ハルいたのか? 電気もつけずにどうした?」
電気がついて大好きな声がして、ハッと我に返る。
着替えのために部屋に行こうとする上総の背中に抱き着く。
「上総」
「……どうした?」
「顔見ると言えなくなりそうだから、このまま聞いて?」
素直に自分の気持ちを伝えるなんて、久しぶりだから緊張してしまう。
上総の体に回した手に、上総の手が重なる。
「ありがとう。上総のお陰で緊張せずに挨拶出来た」
「そっか。良かったな」
「あの……………大好き」
言ってから自分は何を言っているんだって、急に恥ずかしくなる。
でも、凄く小さい声だったし………何も言わないから聞こえなかったかな?
そう思っていたら抱き着いていた腕を剥がされて、向き合うようにしてギュッと抱き締められた。
「突然そういうこと言うんだから……嬉しくて一瞬呼吸することを忘れたよ」
「な、何言って」
「俺も大好きだよ」
エッチする時みたいに少し低い声で言われて胸がキュンとする。
同じ言葉を返すのは恥ずかしいから抱き着く腕に力を入れる。
「明日が2人とも休みならハルの声が枯れるまで抱くのになぁ」
「バカっ! 何言ってんだよ」
怒る俺の頭を撫でて、上総は微笑んだ。
「良かった。いつものハルだな。教師1日目、お疲れ様。これから大変な事もたくさんあるだろうけど、ハルなら大丈夫だよ。何かあっても俺はずっとハルの隣にいるから」
上総の言葉が心にスーッと入ってくる。
「バカっ……上総のくせに、格好良いじゃんか」
苦笑した上総の顔が近づいてくる。
目を閉じてキスを受ける。
幸せだ。
恥ずかしくて言えないけど、俺もずっと上総の隣にいるから。そう気持ちを込めて上総の舌に自分の舌を絡ませた。
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