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第368話.お見舞い

静くん病室にいると色々な人がやって来る。 明さんと晴臣さんは大体いつもいる。 仕事の合間に諒平さんが来たり、風間先生も週に1度は様子を見に来る。 一緒に拉致されていた子達もみんな森さんの薬で体調を回復させて、今では目も問題なく見えるようになったようだ。 静くんが女の子達を差し置いて1番可愛いと言われていたらしく、みんな口を揃えて『目が見えるようになったらシズカ(君)の顔が見たい』と言っていて、代わる代わる会いに来る。 僕からすればみんな可愛いと思うんだけどね。 ただ、咲弥くんが受け身の方だと聞いた時は少し驚いたけど、恋人と一緒にいる所を見たら納得した。 みんな幸せそうで僕も嬉しくなる。 静くんの闇がおそらくご両親が亡くなった時よりも深いだろうことは想像に難くない。 それでも前のように笑顔を見せて欲しいと思うのは、以前の明さんのようで酷く傲慢だ。 少しずつ闇を取り払っていくしかない。 それにはみんなの協力も必要だ。 静くんが目覚める前に1度みんなに話しておかなくちゃいけないよね。 大人は言わなくても分かるだろうから、子供達がみんなで来てくれる今日は話すのに絶好の機会だろう。 面会時間開始とほぼ同時に扉がノックされた。 「はい、どうぞ」 入ってきたのは敦くん、誠くん、ハルくん、長谷くん、芹沼くん、そして誠くんよりも少し小さい子。あの子が来夢くんで間違いないだろう。 あの子が西園寺さんの毒牙にかかるなんて、あってはならない事だ。 「拓海さん、静はまだ目が覚めないの?」 「え? あの人が静先輩………? 女の子にしか見えないですね」 確かに髪の毛も伸びたままで、さっき温かいタオルで体を拭いたばかりだから頬も紅潮している。 それにしても静くんが先輩って呼ばれるのはこそばゆいな。 「君は初めましてだよね? 僕は医師の地迫拓海っていいます。宜しくね」 「あ……宜しくお願いします。僕は聖凛高等学校の新入生で有栖川来夢と申します。敦先輩の言っていた通り、鈴先生とは似てませんね」 「うん、よく言われる。僕は母親に、鈴は父親に似たからね」 「なるほどです」 喋り方からもいいとこのお坊ちゃんだと分かる。 それにしても、来夢くんの格好はそれこそ女の子みたいだ。 でもそれがとても似合っている。自分のことをよく分かっているんだろう。 みんなが静くんの顔を見たところで、話をするために話しかける。 「敦くん、誠くん、ハルくん、長谷くん、芹沼くん、来夢くん。ちょっとだけ僕に時間をくれないかな?」 「拓海さん? どうかしたの?」 「静のことで何か話があるんですか?」 「うん。病室から出ようか。また戻ってくるから荷物はこのままでいいよ」 みんなで病室を出ると、僕がカウンセリングで使う部屋に移動する。 「ごめんね、移動してもらっちゃって」 「あの、話って?」 ハルくんが不安そうな顔をして聞いてくる。 「別に変な話ではないよ。これから先、静くんの目が覚めた後のことなんだけどね……。喋り方についてはそう時間がかからずに元に戻ると思う。問題は表情でね」 「1度は笑ったけど……前みたいになっちゃうの?」 誠くんが泣きそうだ。 「そうだね。今回も笑えるようになるといいけど、その事を静くんには言わないで欲しいんだ」 みんな何も言わずに僕を見ている。 「たぶん静くんが1番笑いたいと思う。それが出来なくて苦しむこともあるかも知れない。でも、笑っても笑えなくても静くんであることには変わりないから、態度を変えないで欲しいんだ。お願いできるかな?」 「もちろん。笑顔を見たいのは変わりないけど、無理はして欲しくないから」 「そうだよね! きっとまた笑えるようになるから、それまで待つの」 「俺は笑ってる静くんしか知らないけど、見守ります」 「僕は……よく分からないけど、お話をしてみたいなって思いました」 長谷くんと芹沼くんも頷いている。 みんな僕の思いを分かってくれたようで、良かった。 静くん、安心して目を覚ましていいからね………

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