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第369話.静からのメッセージ【SDカード】
静くんが秀明さんの所に自ら行ってから明後日で丁度1年になる。
明日が日曜日なので諒平さんの所で静くんから預かったというSDカードの中身を見ることになっていた。
あのまま目が覚めた状態でいたのなら、きっと静くんも一緒に見ることになって笑い話にでもなっていただろう。
でも今ではこちらの呼びかけにも反応しなくなってしまい、このまま目を覚まさないんじゃないかと心配になっている。
明日のメンバーは、諒平さん、風間先生、明さん、森さん、 鈴、敦くん、誠くん、ハルくん、長谷くん、芹沼くん、そして僕の11人。
半年前にメッセージカードを受け取るために集まったメンバーだ。
静くんのことを晴臣さんや同僚に頼んで、何かあれば必ずスマホに連絡が貰えるように話をして、風間邸に向かった。
事前に諒平さんに電話をしたら、今日は1日家にいるらしく、いつ来てもいいと言われた。
前に聞いたのはSDカードに入っているのは動画であるということ。
1年前の静くんに会えるのは嬉しいような……とても複雑な気持ちになる。
目を覚まさない静くんは傷だらけで、どんなに体から傷が無くなったとしても、心の傷は深くてなかなか消えないだろう。
インターホンを鳴らすと、扉から出てきたのは誠くんだった。
「拓海さんだ! 明さんはもう来てるよー。これであとは森さんだけだ」
「遅くなったみたいでごめんね」
「ううん。僕達が早く来ちゃっただけなの。今ね、静の昔の写真を見てたんだよ! 凄く可愛いの」
僕も家で何度もアルバムを見ている。おそらくそれを明さんが持ってきたのだろう。
屈託のない笑顔の静くんは、紛うことなき天使だ。
諒平さんの家は相変わらずメルヘンでふわふわしたものでいっぱいだ。
敦くんも綺麗になってきたが、やっぱりこのメルヘンに溶け込んでる。だが、誠くんの溶け込み度合いはハンパない。
メルヘンの世界の住人だと言われても納得出来る程だ。
長谷くんは浮いているが、芹沼くんはしっくりくる。
メルヘンの世界の王子様のようだ……明さんは国王かな………変な想像に苦笑する。
「遅くなってすまない」
変な想像をしていたら森さんも到着し、全員がリビングのテレビの前に集まった。
ソファの前に子供達が、ソファに大人達が座った。
これで全員がテレビの隅から隅までよく見える。
「俺はでかいんでソファの後ろに立ちますね」
「じゃあ、俺も」
長谷くんと芹沼くんは立ち上がるとソファの後ろに回った。
諒平さんはテレビの準備をしてから電気を消した。
まだ昼間だから真っ暗にはならないが、カーテンも閉まっているので結構暗い。
「じゃあ、始めるわね」
テレビに家の様子が映し出される。
『えっと、これで映ってる? あ、そっか……ここを押して……これで映ったかな?』
「静だ………」
小首を傾げる静くんの映像にみんなの雰囲気がぽわんとする。
『見えてるかな? じゃあ、始めるね。………僕がいなくなってもう1年になるんだね。僕は見つかったかな? それともまだ行方不明? 出来たらこれを一緒に見られてたらいいんだけど』
終始微笑みを絶やさない静くんが逆に痛々しい。
『集まってくれた皆さん、ありがとうございます。心配ばかりかけてごめんなさい。明さん、僕は明さんがいなかったら生きてこられなかったと思う。こんな僕のことを家族だと思ってくれてありがとう』
1人ずつメッセージがあるようだ。
『拓海さん、明さんのことよろしくお願いします。迷惑かもしれないけど、僕は拓海さんのことも家族だって思ってるよ。敦、何も言わずにいなくなってごめん。怒ってるかな? でも、これが最善の選択なんだ。わかって欲しい。誠、1人で泣いてない? 敦も芹沼くんも長谷くんも誠の味方だから、頼っていいんだよ』
静くんの言葉はストンと心の中に落ちる。
少し高めの透き通るような声も、可愛らしいその顔も覚悟を決めた意志の強さが滲み出ている。
『長谷くん、敦は脆いところがあるから支えてあげてね。2人は一緒にいることでより強くなれると思うから。芹沼くん、誠はたぶん見た目は変わらないと思うけど、落ち込んでるだろうから頭を撫でてやって。そうすると落ち着くはずだから。ハル先生、ほんの少ししか一緒にいられなかったけど、大切な事を気付かせてくれてありがとうございました。それに気がつけたから迷いなく行けます』
1人1人へのメッセージの後にふわりと微笑む静くんが可愛くて仕方がない。
『風間先生、ようやくまた走れるようになるかと思っていたので残念です。諒平さんと仲良くして下さいね。諒平さん、色々と頼んでしまってごめんなさい。それを嫌がらずに引き受けてくれてありがとう』
少し間があいてから続いた。
『最後に鈴成さん、指輪ありがとうございました。僕はこれがあれば何でも乗り越えられるって思ってます。あなたと出会えたこと、本当に嬉しいです』
幸せが伝わってくる綺麗な笑顔だった。
『こんなに長い時間待ってくれて本当にありがとうございました。もう待たなくていいよ。さようなら』
バイバイと手を振ってから映像が切れるまで少しの時間があった。
おそらくこの動画は皆に別れを告げるために撮られたものだろう。
「あれ? 俺には何もなしか?!」
「仕方ないわよ。森に連絡するって決めたのは私のお店に来た後のことだもの」
「ねえねえ敦、もう一度今のって見られる? 最後のところ」
「どうかしたのか?」
「たぶんだけど、静が何か言ってるの。音量を上げて、もう一度見たいの」
誠くん以外の人には何一つ聞こえていなかったが、最後の部分だけもう一度見ることになった。
『バイバイ』
諒平さんはその後で音量を上げた。
『……嫌だよ……行きたくっ…ないっ……たすけてっ……』
映像が切れる前に聞こえた声は泣き声で、きっと静くんの本音だ。
やっぱり心ではずっと助けを求めていたんだ。
そこにいた誰もが静くんの言葉に、その悲しみに涙を流した。
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