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第370話.静くんを思う

静くんが自分から秀明さんの所に行ったのは間違いないけど、もちろん喜んで行った訳じゃないことは分かっていた。 あの綺麗に笑ったすぐ後に泣いて助けを求めていた。 ずっとずっと助けてって心の中で叫び続けていたのだと思う。 それが誰にも届かなくて全てを諦めたとして、誰がそのことを咎められるのだろう………。 自分のことよりも周りの人のことばかりを優先する子だから、余計に『助けて』なんて言葉に出来なかったのだろう。 一緒に拉致されていた子達の話しを聞いても、静くんはあんなに小さいのに自分のことを犠牲にしても全員を解放させると、その信念だけは揺るぎなかったと言っていた。 もう怖いことはない、安心していいとあの子自身が認識してくれたらいいと思う。 ここに集まった全員が静くんを思って涙を流している。 それは全員が静くんの味方だということだ。 これだけたくさんの支えがある。そのことが嬉しくなってまた涙が溢れた。 しばらくして諒平さんがみんなに声をかけた。 「飲み物を入れたから、飲んでちょっと落ち着きましょう。森にも話しをして欲しいし」 「……んあ?!……俺?」 「そうよ。森にコメントが無いのは分かってたけど呼んだのは、今の静ちゃんの状態について聞きたかったからなの。サファイアの薬は続けてるんでしょ?」 目覚めないことにばかり目がいっていたが、サファイアの排出についてどうなっているのかは詳しいことまでは、医師である自分のところまでも上がってきていない。 「また寝た状態になってしまったから点滴を続けているよ。本来ならまた検査をしながらがいいけど、反応を示さないから北海道で調べた検査結果と、尿にどれだけ排出されているかを元に薬の量を決めてる」 「その薬が目覚めない原因っていうことは無いの?」 諒平さんはみんなが聞きたいと思っている質問をしてくれた。 「ゼロとはいえない。でも薬の投与は1日に2時間と決めて行われてるし、今までにアレルギー反応も起こしていないことを総合すると、目覚めない原因は他にあると考えるのが自然かな」 「そう……私は北海道に行けなかったから静ちゃんが目を開けて喋ってたって聞いて、羨ましくて仕方ないのよ。たぶんここにいる誰よりも目を開けて私を見る静ちゃんに会いたい………」 ポロリと涙を流し、そんな諒平さんの背中を風間先生がポンポンと優しく叩く。 「諒平さん………僕は静くんが目を覚ましてくれるって信じています。それもそんなに遠くなく。静くんには無理はして欲しくないですが、強い子なので………」 「拓海ちゃん……私も信じてるわ。だから、目を覚ましたらすぐに教えて欲しいの………」 「もちろんです」 諒平さんだけじゃない。今日は来ていないが晴臣さんも吾妻さんも雨音さんも、それに来夢くんも目を覚まして欲しいと考えているだろう。 いない間どこにいるのか考えて、どこにいるか分かった後は助けたいと思い、助けられないと落ち込んで……… 様々な感情が渦を巻いていた。 明さんは病院に戻る前に有栖川の家に寄ると言って、向かって行った。 子供達が静くんに会いたいと言うので一緒に病院に向かう。 「そういえば来夢くんは今日はどうしてるの?」 「お父さんに呼ばれたから行ってくるって言ってたよ。泊まらずに戻るって言ってたから、もう戻ってるかなぁ……?」 明さんと来夢くんが鉢合わせることは無さそうかな。 来夢くんのお父さんと約束をしてるって言ってたから、向こうもそうならないようにしてるか………。 ずっとそばにいた息子がいなくなって寂しいのかな? 泊まらずに寮に戻るなんてご両親もまた寂しくなるね。

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