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第376話.募集中
食事の間もダイ兄ちゃんは色々と話題を振ってくれた。
靖さんの話を出さないのは、僕が話したくない内容だと分かってくれたからだと思う。
「ここの食事は美味しいな」
「でしょう? 何を食べても美味しいんですよ」
「そんなに褒められると照れますね。オムライスには本来付かないんですが、サラダも食べませんか?」
「え? いいんですか?」
雨音さんはいつもサービスしている気がするけど、売り上げとか大丈夫なのかな?
「実は来て下さる予想よりもお客様が少なくて……余ってしまいそうなので。助けると思ってお願いできませんか?」
「そういうことでしたら、ありがたくいただきます」
「チーズも掛けますか?」
「チーズ?」
「ダイ兄ちゃん、チーズは掛けた方が美味しいよ」
一瞬こちらを見て微笑むもんだから、どうしていいか分からなくなってランチプレートのスープを飲む。
「来夢のお勧めなら間違いないな。チーズ、お願いします」
その場でパルメザンチーズを削るから香りが舞う。
香りだけでも美味しいと分かる。
僕のランチプレートのサラダには元から掛けられている。いつも頼むから今日は掛けてくれていた。
食事が終わると、そのタイミングでコーヒーと紅茶が運ばれてくる。
「食後のケーキですが、今日は紅茶のシフォンケーキとガトーショコラがありますが、どうされますか? 来夢くんは2つともだよね?」
「はいっ!」
ここのケーキは何個でも食べられそうな位美味しい。
「俺も甘いものには目がないんだ。半分ずつでお願い出来ますか?」
「では来夢くんと同じものをお持ちしますね」
雨音さんがカウンターの中に戻ってから、気になっていたことを聞いてみた。
「ダイ兄ちゃんは煙草吸うんだよね? ここは禁煙だから辛くない?」
「何で煙草のこと?」
「ジャケットからほのかに煙草の匂いがしたから」
「嫌だったろ? ごめんな。殆ど吸わなくなったけど、たまにストレスが溜まった時にだけ数本吸ってる」
悪かったって謝るダイ兄ちゃんは、良い人なんだね。
「大丈夫です。お父様も吸われるし、靖さんもかなりのヘビースモーカーだから……昔は気管支が弱くて咳き込むことも多かったけど、もう薬もなくて大丈夫になったんだよ」
それでも副流煙には気をつけるようにって先生には言われたけど、今のところ問題ないし大丈夫だと思っている。
「なあ………」
「ケーキの盛り合わせお待たせしました。はい、どうぞ」
雨音さんはダイ兄ちゃんが何か言おうとするタイミングで持ってくるけど……たまたまだよね?
「うわあ、いつも通り美味しそう! 生クリームもたくさんだね、ありがとう! 雨音さん」
まずはシフォンケーキから。フワフワで口の中ではシュワっと消えていく。
ガトーショコラはチョコレートを食べているみたいに濃厚だ。
紅茶で口の中をリセットして、シフォンケーキ、ガトーショコラの順に食べる。
ダイ兄ちゃんと美味しいものを一緒に食べる………。
幸せのひとときのはずなのに、すごく胸が痛い。
「ねぇ、ダイ兄ちゃんには恋人いるの?」
いるって言ってくれればいいと思って聞いた。
そうしたらちゃんと諦められるから………。
「ん? 今はいないよ。募集中」
聞かなければ良かったな。
立候補したいけど、無理だよ。
こんなにカッコよくて、名刺には専務取締役って書いてあったから、きっと周りも放っておかないよね………?
すぐに恋人が出来て僕のことなんて忘れちゃうんだろうなぁ。
「そうなんだ! ダイ兄ちゃんはカッコイイからすぐに出来そうだね!」
「それはどうかな………? 好きな子は俺を見てくれないから」
『好きな子』に衝撃を受ける。
そうだよね。そういう人がいてもおかしくないもんね。
「告白はしないの?」
「んー。したら迷惑になるのか助けになるのかちゃんと見極める必要があるから、ちょっと考えようかなと思ってる」
好きになってもらえた人は幸せだね。
羨ましいな………
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