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第380話.先輩という響き

思わず連れてきて欲しいと言ってしまった。 でも、望まない体の関係は身も心もボロボロになる。 どんなに仕方の無いことだと分かっていても、どんなに覚悟を決めていたとしても、その時がきたら生きていることが嫌になってしまうくらい辛い。 あんな思いは誰にもして欲しくない。 最後まで回避できる方法を模索して欲しい。 「静くん?」 「拓海さん、後輩の、その子とは、会ったの……?」 「会ったよ。敦くんも誠くんもとても心配してた。全部1人で抱え込むような子、かな」 「そっか」 少し僕に似た行動をする子なのかもしれないと思った。 明日は長谷くんも芹沼くんも………鈴成さんも来てくれるらしい。 すごく待ち遠しい。会いたいと思う。 だけどやっぱり僕は汚れているから、もう鈴成さんと一緒にはいられない。 みんな優しいから事故に遭ったようなものだって言うけど、僕は事故に『遭った』のではなく『向かって行った』んだ。 「また変なこと考えてる。僕だって怒るよ?」 「拓海さん………」 「やり直せない人生は無いんだよ」 「え?」 『やり直せない人生は無い』その言葉がストンと胸に入ってくる。 「僕はやり直したいと思った時点で新しい人生が始まるって思ってる」 涙が込み上げてくる。 もう枯れてしまったと思った涙は、まだ出てくるらしい。 「あんなことが、あっても? 新しい、人生も、みんなといて、いいの?」 「もちろん。みんな一緒だよ。鈴もね」 こんなに幸せだと思っていいのだろうか……? 拓海さんに抱きしめられて背中をさすられたら、いつの間にか眠ってしまったようだ。 目が覚めたら面会時間まであと30分しか無かった。 リハビリで教わった様に車椅子に移って洗面所で顔を洗って、トイレに行く。 ベッドに戻ったのは面会時間開始ギリギリだった。 少しして敦と誠と長谷くんと芹沼くんと誠よりも小さい子が来た。 あの子がそう、なんだ。 「初めまして」 こちらから声をかけたら驚かせてしまったみたいで、目を見開いて僕を見た。 「あっ、あの……初めまして。有栖川来夢です」 「来夢くん、僕は、本島、静です……いきなりで、悪いけど、少し、来夢くんと、2人に、なりたい」 拓海さんを見上げると微笑んで頷いてくれた。 「分かった。来てもらって早々ごめんね。飲み物でも奢るから喫茶店に行こうか」 「また戻ってくるから」 「うん、ありがと」 拓海さん達が出ていくと来夢くんと2人きりになる。 きっとどうしていいのか分からないのだろう。 ずっと同じ場所に立ち尽くしている。 「来夢くん……?」 「……はいっ!」 「初めて、話すのに、2人だけに、なんて、ごめんね」 「いえっ、あの……静先輩が起きてるところ初めて見ましたけど、スゴく可愛くて! なんか緊張しちゃって」 僕よりもずっと可愛い子に、可愛いと言われて、どうしていいか分からなくなる。しかも先輩なんて、くすぐったい。

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