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第383話.目標
「みんな、そんなに暗い顔しないの。じゃあ明るい話題を1つ。時間はまだかかるけど、1人で車椅子に乗れるようになったでしょ?」
拓海さんの質問に頷く。
「学校に戻れるよ」
「………え?! 本当に?」
「1年以上の休学だから、編入試験を受けてその結果によって戻る学年が変わるみたい。静くんなら問題なく、2年生として戻れるね」
嬉しい……。あの空間に戻れることが嬉しい。
「「静っ!」」
「たくさん、待たせて、ごめん、なさい。また、よろしくね」
長谷くんも芹沼くんも微笑んで頷いてくれた。
こうやってみんなに支えられてるって感じられるのは、戻って来られたから………。
僕を心配してくれた人達が1人でも欠けていたら、今僕はここにいられなかったと思う。
「聖凛の編入試験って難しいって評判ですけど……」
遠慮がちに来夢くんが声を出す。
「問題ないよ。静だから、伝説の入試満点とった人って」
伝説って何?
「え?! 今学年1位の人じゃないんですか?」
「あいつは、2位だったんだよ。入学式の挨拶も静がした訳じゃないから、勘違いしてる人は多いみたいだけど」
別に学年1位が、入試満点が偉いわけじゃない。
ただ、他人に与える印象は良いに越したことはない。
「僕が、戻ったら、敦と、誠と、僕で……1位から3位、まで独占、するから」
「なんか、懐かしいね! また静に勉強を教えてもらえるなんて、嬉しいよー!」
誠がギューッと抱きついてくる。
頭を撫でると、相変わらずふわふわの髪の毛が気持ちいい。
「そういえば、来夢も成績は上位なんだよな?」
「昔から家庭教師がついてたので……有栖川の長男として恥ずかしくない成績じゃないとダメだから」
来夢くんは『有栖川の長男』という呪縛に囚われて、自由がないようだ。
「でも聖凛は頭のいい人が多いので、10番以内に入るのがやっとで………」
「……一緒に、勉強する?」
僕の提案にバッと俯いていた顔を上げた。
「いいんですか?!」
「何人いても、問題ない、から。ただ、僕と誠の、部屋でだ、けど………いいかな?」
「俺達もまた教えてもらえるのか?」
「もちろん」
長谷くんと芹沼くんも話題に入って来る。
敦と誠と来夢くんと長谷くんと芹沼くん。教える人数が増えたけど、それも嬉しく思う。
「目標を、決めよう」
「オレは今1位のあいつを抜く!」
「僕は敦の上を目指したい!」
「僕は1年生の学年1番を……」
「俺は10位代に入りたいな」
「俺は基礎からやり直しで。最終的にはジュンと同じくらいまではいきたい」
みんなスラスラと目標が出てくる。
「僕は、みんなの、目標を、達成、させる。それと、1位になる」
楽しい学校生活が戻ってくる。
想像だけでも楽しい。
いつ戻れるんだろう???
ちょっと前にみんなを悲しませて暗くなったことは、拓海さんの思惑通り、どこかに吹っ飛んでしまった。
「あらあら、賑やかね」
「元気なことはいい事だよ」
今日はたくさんの人が来てくれる。
「諒平さんと、風間先生、だ」
「静ちゃん、元気そうで良かったわ」
ふわっと笑う諒平さんの後ろから明さんも来た。
「諒平も来たのか……風間先生、お忙しい所来て頂いてありがとうございます」
明さんが僕の代わりにお礼を言ってくれる。
「明きゅん! 私の扱いひどくない?!」
「諒」
風間先生に諌められて、諒平さんは僕のそばまで来た。
「あら? 可愛い子が増えたのね……?」
「この子はね、有栖川来夢くん! 僕と敦の中学の時からの後輩なの」
「初めまして、風間諒平です」
「初めまして……有栖川来夢です!」
見た目もあるのか、来夢くんは緊張しているようだ。
「諒平さんはね、あのCLASSYのデザイナーさんなんだよ」
「え?! CLASSYってあの? 僕には大人っぽ過ぎて似合わないけど、カッコよくて素敵ですよね!」
誰もが認めるデザインを手掛ける諒平さんは、やっぱり凄い人だな。
「これ、試作品なんだけど……いる?」
諒平さんが取り出したのはプラチナのチャーム。
ウサギとネコとクマ、それにパンダだ。
「静ちゃんがウサギ、敦ちゃんがネコ、誠ちゃんがクマで、来夢ちゃんがパンダね。あ、静ちゃん。アヤメちゃんが待ってるって伝えてって言ってたわ」
諒平さんの言葉に首から下げた指輪を触る。
「あと、明きゅんに会いたがってたわね」
独り言のように呟かれた言葉を拾い上げる。
「アヤメさんに、近いうちに必ず行くと伝えて下さい」
指輪が元通りに戻る。とても嬉しい。
あの時みたいに鈴成さんはまた僕の指に指輪を嵌めてくれるかな………?
明さんと風間先生と話をしている鈴成さんを見たら、目が合って微笑まれた。
出会ってから何度も思ってるけど、やっぱり鈴成さんは格好良いなぁ
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