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第385話.愛しい
目を閉じてから結構経つが、何の感触もしない。
少し薄目を開けてみようか……なんて考えていたら音が聞こえた。
カシャッ
聞き覚えのある音に目を開けたらスマホ片手に素敵な笑顔の鈴成さんがいた。
「すごく可愛い。キスを待ってる顔なんてレアだね」
「恥ずか、しいです」
「たくさん写真を撮りたい。あの時静の写真を撮って良かったって何度も思ったんだ。何も無かったら静がいたことすら夢だったんじゃないかって思っていたかもしれないから」
1年も待ち続けてくれたのは奇跡に近いと思ってる。
『卒業したら、結婚を前提に付き合って欲しい』
そう言われた次の日には姿を消したのに、今もこうしてそばにいてくれる。
運命はイタズラで酷いこともたくさんあった。
だけど、鈴成さんが待っていてくれたことは本当に嬉しくて………
自分の運命を呪ったり、喜んだり………どうしていいか分からなくなる。
「これからは2人の写真もたくさん撮ろう」
「……でも、写真は、苦手です」
「変な顔しててもいいの。2人が一緒にいるって思い出を切り取りたいだけだから」
恥ずかしいセリフも鈴成さんが言うと様になるから不思議だ。
「分かり、ました」
「ちょっと移動するから掴まってて?」
「え?」
ひょいっと抱き上げられて、明さんか晴臣さんが泊まり込む時用のソファに座る。
隣に座るとばかり思っていたのに、鈴成さんは僕を膝の上に座らせた。
後ろから抱き締められて身体が強ばる。
「鈴成、さん。顔が、見えるように、したいです」
相手は鈴成さんだと分かっている。頭では分かっているけど、身体は恐怖を訴えかける。
すぐ向かい合うように直してくれたけど、やっぱり膝の上だから……すごく恥ずかしい格好になっている。
「ごめん。怖かったね。これで大丈夫?」
あまりに恥ずかしくて頷いてからギュッと抱きつく。
落ち着くからってスンスン匂いを嗅いでいたら気が付かれてしまった。
「俺、臭うか?」
「え?」
「くさいかな」
「違い、ます。鈴成さんの、匂い、落ち着く、から……好き」
本当のことを言ったけど、よく考えたら変なことを言ってたかもしれない。
「……あの…」
「…………可愛すぎだ!」
「え?」
さっきのように耳の辺りを両手で持たれて、そのままキスをされた。
ちゅっちゅっ
何度も何度も唇がくっついては離れる。
濡れた感触がして、唇を舐められたと分かる。
おずおずと唇を開き、その舌に自分の舌を合わせる。
好きな人とのキスはすごく幸せで心が温かくなる。
2人の唾液が混ざり合う。
こぼれたら勿体なくて、必死に飲み込む。
それでも舌を絡ませ合うことは止められない。
「……静っ………」
名前を呼ばれる、その声が愛しい。
頬を触る、その手が愛しい。
僕を見つめる、その目が愛しい。
鈴成さんの全てが愛しい。
降り注ぐようなキスが止んで、閉じていた目を開けて見上げる。
「静、大好きだよ。もう絶対に離さない」
「……鈴成さん、僕も、大好き、です」
されるばかりが嫌で、僕から唇を合わせた。
ほんの少し触れただけのキスに恥ずかしさも振り切れる。
身体を離そうとしたらギュッと抱き締められて、また唇が鈴成さんのそれに覆われる。
頭の中は鈴成さんのことでいっぱいで、他のことなんて考えられなくなった。
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