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第387話.リハビリ
鈴成さんが僕とこれからの人生を歩きたいと言ってくれた。
こんな嬉しいことは無い。
僕も同じ気持ちだ……けど、本当に僕でいいのかな……?
不安になりながらも同じ気持ちだと伝えると、鈴成さんはとても嬉しそうに笑った。
ほわんと胸が温かくなる。
「なぁ、静」
「はい」
「夏休みに2人で旅行に行かないか?」
「え?!」
旅行……。
「嫌か?」
「えっと、誰かに、見られたら、どうする、んですか?」
「なら、変装でもして行くか」
「へ、変装……?」
「伊達メガネかけるくらいはできるかな」
メガネの鈴成さん……絶対に格好良いっ!
「僕は……考えて、おきます」
「考えて、ということは?」
「旅行、行きたいです」
ふわりと抱きしめられる。
「どこか行きたい所はある?」
「……鈴成さんと、一緒なら、どこでも………嬉しいです」
「………またそんな可愛いことを言って」
鈴成さんの腕の中で見上げる。
目が合って、その笑顔が眩しくて目を閉じる。
そんなつもりではなかったけど、またキスをされた。
鈴成さんの唇は柔らかくてずっとくっついていたい……そんなことを考える僕は、はたしなくて嫌われちゃうかな………?
しばらくして唇が離れていく。
その唇を追いかけたかったけど、ぐっと我慢する。
目を開けると鈴成さんは穏やかな表情でこちらを見ていた。
「旅行まで、には、ちゃんと、歩けるよう、にリハビリ、頑張り、ます」
「無理はしなくていいよ。でも手を繋いで歩きたいから、頑張れる範囲で頑張って」
変装したら、歩けるようになったら、鈴成さんと手を繋いで歩けるの?!
俄然やる気がみなぎってくる。
「今のところ旅行は8月のお盆明けてからで、20日から3泊位で考えてるから」
3泊も?! ずっと2人きりなんて僕の心臓もつかな……?
今だってこんなにドキドキしてるのに………
「分かり、ました」
この日のうちに鈴成さんが宿を予約していたことを知るのは、その旅行の行きの電車の中でだった。
明日も学校があるから、鈴成さんは帰った。
病室に1人になって今日のことを思い返す。
学校に戻れることが嬉しくて、みんなで目標を決めたこと。
来夢くんの夏休みに行く場所が特定出来たこと。
鈴成さんと2人で旅行に行くことが決定………。
そういえば変装するって言ってたよね……?
僕はどうしたらいいのかな?
敦に相談してみようかな?
JOINで送って聞いてもいいけど、文字にするのも恥ずかしいから、今度あった時に相談してみよう。
鈴成さんとのキスを思い出して唇を触る。
まだ熱をもっているようだ。
誰が来るかわからない状況で………夢中になってしまった。
鈴成さんが帰る時鍵を開けたりしてなかったから、本当に誰も来なかったのは奇跡だったんだって思う。
扉をノックする音で我に返る。
「どうぞ」
「静くん、疲れたよね? 夕飯の後で少しだけリハビリが入ってるけど、行けそう?」
「行きます」
鈴成さんに宣言したように早く歩けるようになりたい。
旅行までは2ヶ月半あるけど、時間はいくらあっても足りない位だ。
「それと学校への復帰だけど、編入試験が来週の金曜日で、そのまま寮に戻れるみたい。リハビリについては今日運動療法師の先生から話があるはずだから」
「本当に、戻れる、んだ………嬉しい」
「良かったね」
頭を撫でられて、本当なんだって分かる。
まずは編入試験で満点をとって、敦と誠、長谷くん、芹沼くんと同じ学年に戻らなきゃ。
「学校の、みんなには、僕のこと、なんて説明、しているの?」
「事故に遭って長期入院が必要になったって言ってあるよ。2度も事故に遭うなんて災難だって、みんな信じてくれたよ」
「そっか……。車椅子で、問題ない、ね。確か寮も、裏口は、バリアフリー、に、なってたし、校内も、バリアフリー、だから」
以前運動部で怪我をした人が車椅子で生活しているのを見たことがある。
不自由そうには見えなかった。
車椅子であっても『学校』に戻れることが嬉しい。
リハビリの先生からは寮に入っても毎日リハビリを続けるように言われて、プリントの束も渡された。
僕には目標があるから……リハビリも楽しもう、そう思った。
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