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第388話.心の支え
「静、行こうか」
「うん」
今日は午前中にリハビリを済ませて、お昼を食べた後に明さんと1時外出だ。
夕飯は外で済ませるということで、夜の8時までに帰ってくる約束になっている。
「ここから駅まで歩いて5分だからありがたいな」
「明さん、色々と、やらなきゃ、いけないこと、あるのに、ごめんね」
「大丈夫だよ」
少しだけ頭を撫でられた。
「本当に、ありがとう」
「素直にそう言われるのは久々だな。でも気にするな。俺にとっては静が最優先事項だから。きちんと嫁に行くまでは、な」
「嫁って………」
相手は鈴成さんってことだよね?
なんだかとても恥ずかしい。
「少し、自分で、車椅子を、動かしても、いい?」
「ん? じゃあ後ろですぐに押せるようにしているよ」
久々に外で1人で車椅子を動かす。
病院内とは違って段差もあれば、アスファルトが剥がれているような予期しないものもある。
それでも駅までは何とか行けた。
駅に着くと駅員さんに車椅子で電車に乗ることを話す。
橋渡しの板が無ければ電車に乗ることが出来ないからだ。
行き先を告げて駅員さんと一緒に電車を待つ。
「あの、お仕事、中断させて、しまって、すみません」
「え? これも大事な仕事だよ。君が謝ることじゃないから。……しっかりとした息子さんですね」
「でしょう? よく出来た自慢の息子です」
否定しようとして見上げたら明さんはニコッと笑って駅員さんと話し始めてしまった。
「こんなに可愛いと色々心配ですよね。駅構内はいつでも我々が手を貸しますので」
「そうして頂けるとありがたい」
「いつでも声をかけてくれていいからね」
「ありがとう、ございます」
駅員さんはわざわざしゃがんで目線を合わせてくれた。
「電車が来るので、もう少しだけ下がって下さい」
降りる駅でもまた駅員さんにお世話になり、諒平さんのお店に向かった。
お店に入ると仕事モードのアヤメさんが走って来た。
「指輪かして。なるべく早くがいいから」
首にかけたチェーンから外してアヤメさんに渡す。
「お願い、します」
アヤメさんは小さく頷くと指輪を持ってまた走って行ってしまった。
秀明さんの所では母さんの指輪だと思っていたが、それでも同じように支えになっていた。
指輪が元に戻るということは、母さんの指輪が無くなるということだ。
嬉しいのに少し悲しく感じてしまう。自分の気持ちが自分で分からなくなる。
「静ちゃん! こんなにすぐに来るとは思って無かったわ」
「諒平さん、車椅子で、ごめんなさい」
なんだか他のお客さんから注目されているようで、落ち着かない。
「何を言ってるの! ここは、CLASSYは来ちゃいけない人なんていないのよ」
「静くん、さっきは挨拶もせずにごめんなさいね。1年以上経ってるから、なるべく早く処置をしたくて。これで30分は時間が出来たわ」
「アヤメさん、帰ってこられたよ。……あの時アヤメさんに指輪を託して本当に良かった。ずっと心の支えだったから」
アヤメさんは目に涙を浮かべて何度も頷いてくれた。
「お帰りなさい。力になれて良かったわ」
「あの、俺からもお礼を言わせてもらいたい。ありがとうございました」
明さんは深々と頭を下げた。
こんな明さんの姿を見たのは初めてだと思う。
さっき『よく出来た自慢の息子です』と言われたことを思い出した。
「明さん………」
「やっぱり! あなたが明さんだったのね。本当にイケメンだわぁ……拓海さんとお似合いね」
「拓海と会ったことが?」
「えぇ、何度かこちらにいらしたことがあって……あ、商品を見にではなくて、オーナーに会いに来た時にお話しして………」
諒平さんを見るとイタズラっ子のようにニヤニヤしてる。
「明きゅんてば、嫉妬かしら? 相変わらず拓海ちゃんLOVEなんだから」
「諒平、うるさい」
「図星でしょ?」
諒平さんは明さんの頬を指でツンツンする。
小さい時から一緒にいる諒平さんだから出来ること、だよね。
「あの、私は結婚してますし、相手は女ですから……心配はいらないかと………」
アヤメさんの言葉に明さんがホッとするのが分かる。
明さんほどの人でも恋人……婚約者が他の人のところに行ってしまうんじゃないかって心配になるんだなぁ。
僕が鈴成さんとのことを不安に思うことがあるのも、仕方の無いことだよね……?
自分の気持ちが変わらないことだけは自信があるけど………
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