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第389話.元に戻る……?

明さんがアヤメさんから色々聞かれて、諒平さんもそこに加わって盛り上がっている。 僕は3人を見ているだけで楽しかった。 それと同時に指輪のことが気になって仕方がない。 アヤメさんは1秒でも早く処置をしなきゃって急いでいた。 それは……もしかしたら完璧に元に戻らないかもしれないってことなんじゃないかな………? 鈴成さんにもらった指輪を加工してでも持って行くと決めたのは自分だ。 あの日ここに着くまでは指輪は形を変えると覚悟も決めていた。 でも元の指輪に傷をつけることなく加工ができると、期限があったとしても元に戻すことが出来るとアヤメさんから聞いてそれに縋った。 記憶が戻ってからはなるべく早くここに来たいと思っていた。 鈴成さんや明さんや諒平さんに頼んでも良かったけど、自分で持ってきたかった。 自分の元から指輪が離れるのが嫌だったんだ。 「そろそろ時間だわ。ちょっと行ってくるわ」 「アヤメさん、邪魔、しないから、一緒に、行っても、いい?」 車椅子を操作してアヤメさんを追う。 「オーナー」 「静ちゃん、アヤメちゃんの部屋は企業秘密の塊みたいなものなの、だから………」 「それなら、扉の外でも、いいから」 少しでも近い場所に行きたい。ただそれだけだった。 「分かったわ。部屋の中に入ってもいいわ。ただし、扉の前から動かないこと、中の様子は誰にも言わないこと。あと、アヤメちゃんが何をしても抗議は受け付けないわ」 「ありがとう」 アヤメさんと一緒に部屋に入る。 部屋の中は指輪の加工をする機械などが置かれているようだ。 その機会の中の1つの前に立ったアヤメさんはピーッという音と共に蓋を開けて指輪を取り出して加工台でピンセットのようなもので周りを摘んだ。 ゆっくりと剥がすのかと思ったら、思いっきりピンセットを上に上げた。 「………っ…………」 一瞬の出来事で息を呑むことしか出来なかった。 ここからは見えないけどキュイーンという音と共にガガっと何かを削るような音がする。 上手く剥がれなかったのかな……? 鈴成さんに貰った指輪は元に戻らなかったの? 泣きたいくらい胸が痛くなる。 安全のための保護メガネをかけた状態のアヤメさんがこちらに来た。 「静くん。両手を出して」 両手を前に出して水をすくうような形にする。 そこに指輪が入れられた。 持ってじっくりと見てみたら傷なんてどこにも無くて、あの時貰った時と同じ指輪がそこにはあった。 嬉しくて嬉しくて。しっかりと手に握ってもう片方の手で包み込み胸に抱く。 「おかえり」 色々な試練を一緒に受けてきた指輪が貰った時と変わらない姿で戻ってきた。 それは指輪が、鈴成さんと一緒にいていいのだと言ってくれているようで、油断したら泣いてしまいそうなくらい嬉しい。 気持ち的に落ち着くとさっきの音はなんだったのか気になる。 「アヤメさん……え?!………」 アヤメさんはこちらにデジカメを向けている。 『アヤメちゃんが何をしても抗議は受け付けないわ』という諒平さんの言葉を思い出した。 これのことを言っていたのかな………? 「ふふっ。ごめんね、あの時の写真が忘れられなくて。今回もいい画が撮れたわ」 「恥ずかしい、です」 「静くんの『おかえり』は泣きそうになっちゃった。少しだけ微笑んだ表情もなんとも言えず素敵だったわ」 微笑んだ……? 表情が出ないって悩んでいるのに………?

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